かくナイショ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ただいま

ぼくは逃亡欲求に駆られている。すなわち死にたくなっている。それでというかなんというか今ぱさぱさのパンの端を齧っている。
いろいろある。状況的に僕は至極恵まれているのだ。ひたむきな奥さんを貰って、街中の広い一軒家に住むことができて、朝夕のメシにも、日々のタバコにも困っていない。自分の店を陰ながら応援してくれている人たちもたくさんいる。
遠巻きからみればさらに幸せそうに見えるかもしれない。僕だってこの歳になって出先でことさらに不幸そうに自己演出などしない(かといって幸せそうにもしていないつもりだが)。
昨日だって来京した友人に会いにいったら、子供ができた餞別にか酒を奢ってくれたし、店のマスターも僕があんまり旨そうにデュワーズのソーダ割り飲むことに感嘆していた。ほんとうに美味かったし久しぶりの友人に会えたのだから仕方ない。
それでも帰宅して、おいしいと思える夕飯を気合い入れてつくって、素晴らしい脚本の映画「阿修羅の如く」を奥さんと観ながら食って、腹一杯になって布団に一緒に入ると、怖気というか悪寒みたいのが僕を圧倒するわけである。奥さんに対するそれではもちろんない。なんつーか化け物じみた寂寥感と無力感に包まれる午前0時なの。
もそもそと布団から這い出て、風呂を追い焚きして、灯りを消して真っ暗闇の湯船に浸かり、頭まるごとぶち込む。ボイラーが湯をじぃと温める音が拡張されて聴こえる。それ以外は無音。追い焚きが終わるとほぼ全くの無音。息が詰まってぶくぶくと息を水の中で吐き出す自分かなにかの発する音にとってかわる。このときがはっきりいっていっちゃん幸せだったりする。なんだろうな?
身近な友人が一人で消えたがっているのだ。
すくなくともいまのところ一週間ちょっと姿を見せない。彼女はそのちょっと前に会ったときはなんとなく躁状態に見えた。その少しあと、まっちろけな顔になって塞ぎ込んでいた。近寄りがたいくらい色っぽくもあった。
そらぁひとつやふたつじゃないこんがらがった理由もあるだろう。彼女の堰を破壊したのは色恋だろうけど、人間は単純でもあるし、そんなに単純じゃないところもそれ以上にある。すくなくとも友人とはいえ入り込めない領域がある。
結局僕はその友人じゃないわけで、ほんとに消えたいかもしれない彼女にとってかわって消えたいなんていうのは馬鹿っぽいわけなんだけど、いみじくも関係性というのは案外そういうもので、たまたま僕も消えたい。
外野ばっかり煩くて、かといってほんとの手を差し伸べてくれるわけでもない。
実をいうと僕が消えたいのはお金が全然ないからなのだ。
だから顔を見せてください。
スポンサーサイト

パティとボブ

高校のときの課題図書みたいな感じでCoyoteという雑誌を読んでいる。深夜0時。「旅」についてのれっきとした雑誌だ。その最後の最後に申し訳のようにパティ・スミスの記事がえっさい値段のマーチンのギターの広告と共にあった。僕はパティをよく知らないが、一文を抜き取ると、
-ボブ・ディランは「パティ・スミスが今この街にいることは未来に生きていくための勇気になる」と言った。-
ディランもよく知らないし、話にならない。それに多分自分は到底ディランにはなり得ないが、僕が住んでいる京都にもそんなよな人が居たなぁ、と、とうとうと思った。中村紘子という人だ。彼女も歌唄い。彼女はおそらく今という今、京都には居ないはずだ。居ないだけで、ディランの言う「未来に生きていくための勇気」というやつが何割か、はたまたは全部失われたような気分になる。そのくせ、たまにひょっこり会うと、なんとなしに常に傍にいることを痛感させられる。彼女の周り、みんなどうだかは知らないけども、だいたいそうだと思う。彼女は幻術使いなのかも知れない。肝心の歌のほうは?それがよく思い出せないんだ。タランチュラはなにをどうしてたっけ?でもそんなことはどうでもいい。
檻のような山に囲まれたこの街で、澱のようにわだかまっている僕らの間に紘子が居たことがどれだけ今の勇気になっただろう。考えただけで気が遠くなる。どこかの街で元気にやっていればそれでいいじゃない。そうとも言える。けれど、同じ澱の中に居るのと居ないのとでは、こちらにとってはたいそうな違いなのだ。
次の台風に乗ってディランもどこかへ行ってしまうし、なんだかなぁ。わかっちゃいるつもりだけど、みんな旅の途中だったのかなぁ。
そんな思いに浸りながらも、僕はここで澱となって生きていくことを決めてしまった。またいつでも彼らに会うことを夢みながら。心配しないで。個人的なことだから。9/20

ライオンロック

今度の台風は
ライオンロックちうらしい
そんなにすごいのか
あっちはすごいよね

淋しい熱帯魚
流れているもの
ぼく台風のとき
だいたい寝てるんだけど

今日もやっぱり寝るのかもしれない ね!

本音を言えば
西荻あたりで
にいと呑みたい

こういう時は
ただなんとなく
にいと呑みたい

1回死ぬ

今朝、実家で目覚めた。ここ一年くらいそう。起きる度生きた心地がしない朝。しばらく夢さえ見ない。鉛のような朝。
まずいきなり、母が金の心配をする。僕はこれから入り用なのだ。たしかにそう。現実味のすこぶる薄い、が、しかしよほど現実的な声掛け。僕はとりあえず水をのんで、タバコを吸うが、そのキツさに卒倒する。文字通り、居間の机からあおむけにひっくり返る。姉が母につっかかる。しばらく立ち上がれるイメージが湧かない。「顔いつもよりむくんでるんじゃないの?」多分そうだと思う。女はそういうのによく気付く。いつも達者なのだ。
シャワーを浴びる。いつも鼻、鼻の穴の右か左かどちらかが詰まっている。そいつを水を流し込んで嗚咽まじりに吐き出す。嗚咽に呼応し、腹からもなんか出そうになる。が、腹には砂のかけらさえ入っていない。僕は涙を流す。何一つ悲しくないのに、だ。なんとかパンツちゃんを履いて、外へ出る。ちゃんちゃら青い空。アニメみたいだ。交通整備のおばちゃんさえ。
緑を欲し御所など通る。自転車がやっとこさ走れる轍が東西に一本。走っていると、当たり前だが、対向から自転車がやってくる。とりあえず、ぎりぎりぶつかるまで近付いてみたいと思い、僕は轍の上を避けるそぶりを見せず進む。そら、もうちょいいけるでしょ、というだいたい三メートルくらい前で対向自転車はおしなべて避ける。申し訳のように僕も少し、左に避ける。ホントは正面から阿保みたいにぶつかりたい衝動を抑えて、だ。御所から仰ぐ空は相変わらず、更に青い。本日、対向自転車避け述べ五件。更に2D化された空を含めた映像。およおよと、少し凹んで御所を出る。
いきつけの喫茶店に入る。すると、テーブル席で、インド慣れしてそうな日本人の男が日本慣れしてそうなインド人の男にインドの言葉を日本語で教わっていた。僕はアイスコーヒーを頼んで、誰も座っていないカウンターの端に陣取りスポーツ紙の競馬面だけ読んで、前に置いてあった詩集に目を通した。多分若い女のそれである。死のことがたくさん綴られていた。内容は生々しいのだが、文章がとても綺麗で、それに個人的なことばかり書いてるのに、さらりと空気を纏っていて、その時点で沢山の人を掬っていた。というか沢山の人の死を掬っていた。これが詩集なんだなぁ。たしかに詩は私で死だ。新鮮だった。ツバメになって、生まれて初めて水をついばんだような。
店にはたいがいBGMというのがある。時には有線だったり、ラジオだったり、どちらかといえば匿名的でさしさわりのない内容のもの。それに対し、ある店ではプライベートな、ある意味思い入れがつよい、誤解を恐れずいえば時に客を殺すような音楽を'意図的'にかけることができる。キラーチューンていう言葉があるくらいだもの。
僕が詩集を閉じたあと、店主はおもむろにCDを替えた。Galaxie500だ。
喫茶店を出ると、心持ち風景が生臭くなっていた。
昼に近所の天ぷら屋を通りかかると、「猛暑につき大特価」と銘打たれた海老天盛合せが陳列されていた。用を済ませた引き返し際に立ち寄り、それをばぁさんから買った。

やつが来た!

images-4.jpg
いやはや、私にとってはごくごく短い競馬ライフではありますが、ほんまにやっててよかったなぁと実感させてくれました。ゴールドシップとの報われない関係については前ブログ「彼等」に綴りましたので、よかったら見てください。今回はそいつが報われた話です。ほんまうれしい。なななんと、あれだけ京都の高速馬場で良馬場及び多頭数競馬では用無しと囁かれておったゴールドシップが三回目の挑戦にして悲願の天皇賞(春)制覇でございます。ほんま自分のことのようにうれしい。もちろんこれまでそれなりに投資してたのもうれしさの一因ではありますが、ほんま彼が生きて走ってるときに五体満足で生で大声で応援できて過酷なGⅠ最長距離の天皇賞のゴール板を一番に駆け抜けるのを見届けられた感動たるや。
上の写真で彼に付き添ってる今浪厩務員ほほほんまうれしかったやろうなー。横山典騎手もプレッシャーすごかったろうなー。
もちろんゴールドに負けた陣営のこともあるし、たかが馬券を買ってるだけのつきなみ競馬ファンな自分なわけなので、でかい口叩けんのは重々承知しておるんですが、彼に関してはなんでか特別ですごく心動かされる。もう馬とは思えん馬ですねん。
淀に赴いて財布の金をほとんど全部彼の馬券に替えて大観衆のスタンドで彼の一挙手一投足をまんじりと見つめながら、過去のこと思ったりゆくゆくのことを思ったり、それでいてただ一心に理由なく彼の激走を信じて微塵も疑うことなく一瞬の、まったく一人だけの孤独で贅沢な時間。いやはや筆舌に尽くしがたいですが、好きな奴をひたすらに追っかけるロマンを受け入れてくれた、形でない何物かに感謝でございます。
ほんまほんまゴールドシップ有り難う。
これは一つの写真であって、感傷に溺れ過ぎない様ライトでドライな人間になることをこれからは目指します。
とかなんとか。

バースデイブルー

どうもこんにちわ。喫茶つきなみの久野昆布です。今日で四月が終わります。去る4月の29日に29になりました。水曜だったので昨日も店を晩まで開けていましたが、モグラグで展示中のおちゃづけくん(若手占い師期待のホープ)にTシャツを貰ったりしてなんだかラッキーでした。ちなみにこのTシャツ。全面はたまたまおちゃづけ展示に駆けつけていたはまぐちさくらこ氏画の浜崎あゆみです。(写真上)
何故浜崎あゆみかというとですな。その朝、誕生日のしかも国民の休日に店やるなんて冴えないなー、と思いながら、つまりそこはかとなくブルーだったんですね。バースデイブルーってやつですか。そんな時ふと浜崎あゆみをココロノアイが求めてユーチューブで聴いたのです。デビューから物凄いスピードでソウルフルな歌唱になっていったあゆ(失礼)ですが、初期の二十歳かそこらの時の彼女の透明感と疾走感はバースデイブルーの僕に最適なレメディになり得、結果彼女の歌どれを聴いても半泣きになってしまうという始末でした。「輝き出した僕らを誰に止めることなどできるだろう」(Boys&Girls) なんてなんて潔い青さでしょう。そんな僕のもろさを感じてくれたのかそうでないのか知りませんが、粋なはからいでTシャツを作ってくれたおちゃづけ君さくらこちゃんナイス。マジ感謝。真夏のヘビーローテーション必至。
150429_2140~001image-1.jpg
20代最後の年です。転機といえば転機かもしれません。
というのも自分も趣味で占いとかするんですけど、類型としておおよそだいたいの人が30歳前後になだらかであれダイナミックであれ起伏というか意識の変化が現れるんです。その前はだいたい中学生くらいからかな。まぁまぁもちろん一日の中にも一秒の中にもそんな変化はありますけどもね。起伏なくてぶれない人もいますが、個人的には劇的な変化の人が好きですなー。ぶれないのはもちろん特別で素晴らしいことなんですけど。まぁそれはいいとして、自分占断ではだいたいそんな時期かなぁ、と。
写真下(拝借物)はそのまた前の週にモムラグで展示即売してたポッポコピー氏のあばずれ木馬Tシャツ。馬モチーフには弱い私。まぁそれは別として、貴重な時間でした。
誕生日前非常に充実しておった上のブルーです。昼からビールを飲みまくって楽しくうやむやにしましたが、切り替えがひじょーにむつかしい。まぁしかし10年前とかと比べると大分慣れて、なんとゆうか布団圧縮袋みたいに小さくたたんで押し入れになんとか突っ込めるようになりましたわ。また春が来たら引っ張り出して、ソイツに圧倒されるかもしれません。
とかなんとか。
まぁまぁそれではみなさん良いゴールデンウィークを。

つきなみ演奏会始めます

CCntiBrUMAAZMY5.jpg
どうも喫茶つきなみの久野昆布です。やっとこさ春が来ました。
3月ころから急にあったかい日が増え出して半年くらい会ってない人の7割くらいに再会した気がします。啓蟄という言葉を知ったのが最近なんですが、自分を含め人間は虫だなーと痛感している昨今でございます。
ほんなもんでそろそろ三年くらいやってるはずのつきなみで満を持してライブをこけら落とそう、と。

東くんは僕が住所不定でズタボロやったときに(いつ頃やったかな。大分前)に快く一軒家に住ましてくれた恩人。そこに引きこもってときに彼のジョジョやら三国志(マンガ)やらをひたすら読ませてもうて今の僕がございます。それから色々迷惑かけました。あんま無駄なこと言わない友人です。彼のずっとやってるバンド「マイマイズ」今すげーいい感じでしっくり来てます。(去年はほっとんど見てないけど)

安藤さんは僕が今と違って律儀にタバコを吸ってなかった19のときにいきって六曜社に初めて行ったときに初めて画像認識した覚えがあります。ほんでマジ誇張なく、京都にはこんなオシャレで雰囲気ある人おるんかいな!って衝撃ウケました。カンペールの靴とか知らんかったし。その時六曜社の給仕さんはどいつもこいつも(失敬)色眼鏡ながら雰囲気ありましたなー。そわそわして手持ち無沙汰でコーヒーおかわりしましたもん。まぁいいです。(歌歌ってると知ったのはその大分あと)

そんな彼らがうっかり知り合ったのが、我らがアレクサンダースのネガポジでのイベントに安藤さんをダメもとで呼んだとき。うっかり承諾してしまった安藤さん。同居人のよしみで見に来てくれていた東くん。安藤さんは高田渡氏の「私は私よ」をカバーで歌っとって、その傍らおいらは「初めて聴いたけど、ずしんと来る歌よのー。そういや東くんも最近つくってた曲でわたしはわたしよって歌っとったなー」と、思って、首を右に傾けて東くんを見たら表情マジでさ。で、マジで恋に落ちとるとは思わんかったけど、マジで恋に落ちてたみたいで、ブログでこれを使うのは実は二回目なんですけど、ハチクロ的に言って「初めて人が恋に落ちる瞬間を見てしまった」わけです。私嵐の桜井くんなわけです(桜井くんすんません)。
それから約一年間続いた東くんの安藤さんを望む日々を逐一見届けていたので彼らの結婚は勝手にすごく喜ばしいものでした。しきりに彼はボロ一軒家で鍋会を開いては安藤さんを誘ってなー。正直ぼくは安藤さんは振り向かんやろーとタカを括っとたわけで。彼らが付き合い出したときは今で言う単勝オッズ250倍くらいの大穴当たった時くらいの衝撃でしたね。いや東くんは漢や。爪の垢煎じて飲ましてもらいたい。

いやー、素晴らしいエピソードをありがとう。(プライベートな話をつらつらと申し訳なくも。)

そんな彼らが一緒につきなみでライブ。ありそうで案外ないミュージシャンの二人の組み合わせ。ほくそ笑みながら楽しませてもらおうと思ってます。今しがた気がついたけど4月22日はよい夫婦の日や。どうぞよろしくお願いします。

ハッピースプリント

なんやかんやばたばたしてる間に冬の京都開催(競馬ね)が終わってしまった。年明けからの単複ヒット率は記録はしてないが過去最悪であろう。実にやばい。経済的に実にヤバい。当たらなければ楽しくもないので、本格的に当たらなくても楽しい競馬ライフを模索することが急務だと思っている。
今年最初のGⅠレースフェブラリーステークスの枠順決定前、かののど自慢予想の権威がのっそりと喫茶つきなみにやってきた。
「お、めずらしい。もう来てくれんのか思ってました。」
「だからGⅠの前やんか。予想に苦労してるんちゃうか、思ってな。今回のど自慢誰出るか知ってるか?」
 僕はすでにフェブラリーステークスの本命を決めていた。一年以上前から名前にぐっと来ていた地方所属道営出身のハッピースプリントという馬である。統一GⅠ二歳優駿の勝ち馬で3歳時には是非ともダービーに出走してほしい、と勝手ながら想っていた馬だ。
「知らんけど本命もう決めてるんすわ。」
「お前もしかして、地方所属の馬とか狙うてるんちゃうか?」
「なんで分かりますのん。」
「そんなもんやと思うてたわ。結局お前はロマン派なんや。(某スポーツ紙の競馬欄を示し)ほら載ってるやんか。ハッピースプリント地方馬16年振りの中央GⅠ制覇へ。なんてJRAの策略に決まってるがな。」
「同じこと考えてる人もいるんですなー。人気してまいますやん。爆笑の田中もハッピー本命にしてましたし。」
「まぁのど自慢次第や。今回はなぁ。なんと八神純子や。八神純子といえば?」
「水色の風じゃないですか?青枠?」
「そうや青枠の8が鉄板やな。まぁそのハッピーなんとかもソコに枠決まったらあるんちゃうか。ほんでもう一人が、なんと、山本譲二や。山本譲二といえば?」
「わかりません。」
「なんや分からへんのん。みちのく一人旅やんか!」
「笑」
「せやから二番ないし二枠の逃げ馬や。逃げ馬のみちのく一人旅や。」
「そうかー。せやったら、コパノリッキーですやん。豊はんやし一番人気確実ですやん。おもんないわー。」

結局水色の風はどこ吹く風、一着は二枠四番、武豊騎手騎乗のコパノリッキー。期待のハッピースプリントはJRAと言う名の馬群に沈んだ。皮肉のように二、三着に入った馬には地方競馬出身の内田、戸崎が騎乗していた。
結局あたいはロマン派というだけのことなのか。いやロマンに依るには甚だ不純すぎるはず。もっと欲にまみれたけったいな肉欲ロマン派なはずだ。まぁどうでもいいか。
景気のいい話ではないけどもコパノリッキーはレース後骨折していたことが判明した。予後不良ではないらしいのでひとまず良かった。みちのく一人旅もたいへんだったろうね。

とはいえハッピースプリントは見放しまへんで。
ハッピースプリント号1


その後、のど自慢予想の権威はやって来た。
「あれはびびったわ。のど自慢見たか?」
「見たわけないじゃないですか。」
「そうか。コパノリッキー強かったなぁ。」
「譲二の2だったんですかね?」
「まぁまぁそれもあるわ。それもあるんやけど俺ビビったわ。八神純子も山本譲二も喪服みたいに衣装真っ黒やってん。そりゃあ黒枠四番来るわな。ほんまびっくりしたで。」
「笑。そらしょうがないわ。」

お店やめます(というタイトルのブログ)

哀調はウケない。限定的にいうと多勢にはウケない。何故かというと、店をやっていて実感的に露骨に客が減るからだ。突発的に哀調のバリアを超えて入って来る新参の客はほぼ皆無である。しかし哀調は滲みでる。不自然なのも滲み出る。暇であればあるほどバリアは肥大していく。暇を打ち破ってくれる客は何人であれ、チェリー君を摘み取ってくれた女性が奴さんの弁天さまであるように神様である。しかれどもいつなんときも神様を大事ににするのはこれすこぶる難しい。その次の客の方がだいたい魅力的だったりするからだ。あるいは魅力的に映ったりするから。
だいたいいつものように今日朝一発目の客はGさんだった。なにせ毎日来る。ちょい前はSさんだった。またあるときはKさんで、ついちょっと前は神さま(あだ名)だった。そうでなければRさんだ。Sさんは持病が悪化したのか。Kさんは最近GⅠレースの前にしか来ない。神さまはどうやら少しウチに飽きたらしく朝近くのパン屋のベンチでパンを食ってるのを見た。Rさんは確定申告前でばたばたしている。というわけでなかなかぶれないのがGさんなわけである。あんまり来過ぎるのでありがたみをどんどんなくしてしまう。酷い話だし、時折反省するわけだが。ちなみに前述の五名は全て男性で年齢を平均するとだいたい五十歳だ。おっさんはあまりコチラの哀調を気にしないのかもしれないし、気にならないのかもしれない。それにだいたいしゃべりかけてくるのでコチラも気が楽だ。彼らはありがたみを求めていない。
いやはやこんなことを考えとると俄然ウケない。こつこつやりまひょかー。出町柳のドトール目指しまーす。不感症主義。店はドライであるべきだ。なんてジャズとかボサノヴァ流したりするとまぁまぁ不自然なんよなー。
今しがた神さまが来た。





be my baby

慣れた。また月曜日です。私変わっておりません。ただ朝の陽光は確実にあったかくなってきている。自分で淹れたコーヒー旨い。普段そんなこと思わない。つきなみやてるよ!
images-1.jpg

さて、私今夢中なんです。現実逃避に近いし、何を今更!なんですが、ウォンカーウェイ氏の映画に先週没頭しまして。きっかけはと申しますと、先週始めあたりのある朝にここナミイタアレのボスがおもむろにユーチューブでDJをはじめまして、
ドゥユドゥユリメンバミー、やっぱ永作博美えーなー、と、そ思わへん?
こんなんやってたんやー
リボンゆうねん。ロネッツぽくない?
僕はというと最近朝のはじめにユーチューブでロネッツのbe my baby(ライブでなくスタジオ音源の方)を聴かずには立ち上がれない病にかかっていて、
なんか意識してそうですねー。僕この歌知ってますわー。カバチタレってドラマの主題歌やった。常磐貴子とか出てた。あれのオリジナルですか?
オリジナルはな、もっとおばはんやねん。なにゆうたかなー。とにかく永作博美がええねん。
そうですかー。
とかなんとか、それから彼がぐっとくる女性ボーカルの類いを東西問わず聴かされておったわけです。胸が気になるミュージシャンが多かったな。その中途、私、自分でもびっくりするくらい、少し漏らしてしまうくらいぐっと来まして、
これなんでしたっけ、なんか聴いたことあるようなないような、
これあれやで。あのなんやったけ、フォンカーウェイの映画の主題歌。恋する惑星の、ヒロインが歌ってるやつ。
なんやっけそれ、
と画面を覗いたら、短髪の東洋人の女の子がおもちゃのヒコーキ片手に無我夢中で、雑でハイセンスな部屋を乱れ駆けしてるようなシーンが流れていたわけです。それなんかしらんけど、見たことあったんですよね。記憶の辺境に埋もれておったわけです。これセンチメンタル過剰に言うと恋のデジャブみたいな。

ほんでなんやかんや、情報聞いてウォン氏の映画をユーチューブで渉猟しまくってたんです。暗殺者の映画とか、ゲイの映画とか、六十年代の不倫ロマンスとか。どれもこれもユーチューブやさかい日本語字幕ないんですけど、映像的香港の風を感じるだけで至福でさ。

つきなみに表現すると、
映画ってほんとにほんとに、素晴らしいですね。

結局映像だけじゃ満足できず出町柳ツタヤに借りにいっちゃいました。ビデオワンにはなかったと、客で来たH女史が言ってたんですけど、ありました。出町柳にありました。都会に焦がれておったけども案外、出町柳は都会や。





ブルーマンデイ

おしなべて月曜日は不調である。いわゆるブルーマンデイである。いやしかし僕は僕とて、世間並に見ても例えば平日を会社勤めに身をやつしているサラリーメンウイメンとてそれは同じかもしれないが。
日曜夕方六時だか六時はんだかのサザエでございまーすはそれらの日常に命を委ねた人々を優しく包む揺りかごでありレクイエムである。(なーんちゃって。)
かくいう私もだいたい小学校高学年くらいのときから日曜にの夕方にテレビから流れてくる笑点のテンテケテケテンテンにいやに落ち込むようになった。落ち込むといっても絶望的に落ち込むわけではないから余計たちが悪い。それを聴く度即座に、しかしゆるやかにこっそりと、確かに生気が奪われて行くのを、流石に笑点なので笑いながら見ているのである。見るのやめればいーのである。しかしそんなことが簡単にはいかなかった小学生時代。

そして果たして私は今成人である。月曜の不調の理由は明快。日曜日に一週間こつこつ貯めたささやかなお金を競馬につっこんでしまうからである。いわば小学校時代の私の笑点のテンテケは昨今の私の競馬の最終レースのファンファーレに等しい。
JRA競馬はだいたにおいて土曜日曜に開催地ごとに一日12レース行われる。往々にして最終レースに血気を上げている連中はメインの11レースまで赤字でもうほとんど手持ちが残っていないのである。そして12レースでそれらの負けを取り戻そうと財布の中身を大穴馬券につぎ込むのである。あるときは帰りの電車賃までも。やけくそなのだ。もう最初から負けているわけ。そんな最終レースは賭けなかったらいーのである。しかしそんなことが簡単にいかない私、今成人、もうすぐ三十路。

この永遠のような負のスパイラルを覆すのには、ある意味ではすごく簡単である意味ではすごくむつかしい魔法がいる。けれど魔法はその都度使おうと思っても使えない。
去年のゴールデンウィークのある一日淀にある京都競馬場での最終12レースで魔法を使えた時があった。魔法の使い方はある程度覚えている。物凄い思いを込めて諦めながらそれと同じくらいの思いを込めて祈るのである。メインは天皇賞(昨年)で勝ったフェノーメノを呪ってはいけない。着外にぶっとんだゴールドシップを呪ってはいけない。蛯名騎手を呪っても、ウィリアムズ騎手を呪ってもいけない。ただ賞賛するでもなく罵倒するでもなく、ええじゃないかの渦をつくる。するとなけなしを賭けた最終レースで大袈裟でなく、我がなくなった。ええじゃないかの渦に我が飲まれたのである。そしたらエンジョイタイムとかいうどこの馬の骨か分からん馬が突っ込んで来た。事実その時背後にいたおっさんの「なんやエンジョイタイムって」という絞り出したような罵声が聞こえて来たものだ。「太宰か。なんやこんな時に来やがって。やってられるかいな。」

無論同じ方法でもシチュエーションが違えば同じ魔法は使えなくて、今も尚戸惑っているけども、大体、もちろん競馬に関係なく魔法を使っている時は同じような心持ちなんだと思う。今は話とは全然関係ないけども、なんとなく朝から比べてハッピーマンデーである。

彼等

imgres.jpg
発情してるのかどうかはわからんですが猫のわななきが聞こえます出町柳にまします久野昆布でございます。奢れる平家も久しからずとはよく言ったもんで、先日のAJCCはGⅠ5勝なりもの入りで出走したゴールドシップが大惨敗。黄金の舟は太平洋で沈没。大量の金塊が海底からサルベージされた模様であります。あぁとかくこの世はままならず。乗客はあの世行き。もしくは救命ボートにすがり身ぐるみはがれて橋の下。無論というかなんというか常ならず3連単一着固定で勝負してたもんで私もゴールドシップと共に沈没。後で配当をチェックしたらミトラの複勝に千円以上ついてるではあーりませんか。救命ボートはこいつやったか。気付いたところで後の祭り。やはりあたいの器では単複で勝負する以外ないみたいであります。

思えば去年の6月29日。宝塚記念。ゴールドシップの激走を予感した僕はある種の確信を込めて彼を軸にした馬連と三連単をしこたま買い込んだわけです。
その時期に僕が依存していたのはのど自慢GⅠ予想というやつで、それは喫茶つきなみの常連のおじさんの必勝法でした。曰く、競馬はどんだけ考えても当たらん。ただ世の中の情報における偶然の一致というのが確実にある。それが国営放送日曜正午ののど自慢のゲストと大々的に地上波放映されるGⅠレースの勝ち馬の一致に及ぶのだ、と。
その日も都合の良いことにのど自慢にゲスト出演しておったのは郷ひろみ。郷ひろみといえばゴールドフィンガー!&数字でいえば5!頭数の少ないレースだったもんで、15番の馬がおらず、考えるまでもなく5番の馬が対抗筆頭になりまして。ほんならゴールドシップは他を圧倒、人気薄の5番カレンミロティック!が激走の2着。こいつはハマった!と祇園ウインズで快哉を叫んで、震える肩をいなしながら換金機にいそいそと馬券を入れました。この馬券は的中しておりません、との音声アナウンス。なんでや、と馬券を確認してみると5=11の馬連馬券はなぜか東京の11レースを買っておって、三連単の方は阪神の方を買っておりながら三着のヒモ3が抜けていたわけです。結果に歓喜を叫んでおきながらこの顛末。あな侘びし。あな恥ずかし。誰に当たり散らすこともできず鴨川。穴があったら入りたい。非情よ。
後日のど自慢予想おじさんにそのありさまを伝えたところ、郷ひろみのミで3やろ、俺言わんかったっけ、とのこと。
慣れないことはやるもんじゃない。人のやり方はその人にしかできないな、と思いました。

つまりはゴールドシップがたいそう好きなんですけど、相思相愛になれないわけです。そこに人類ないし生命誕生から今に至るすべての生き物の抱えてきた悲哀の法則を感じます。それでも買わず追っかけずにはいられない小さな自分、ありのままの自我。大袈裟です、はい。いつの日かゴールドシップに乗って頬をすりすりしたい。

穴党はつらいよ

過去のことを振り返ると失敗パターンというのがありまして。いつも失敗してからまたやってもうた、と気付くわけですけど。ようするに気合いや思い入れが強すぎると足をすくわれるんです。
昨日の日経新春杯は結局思ったより人気してたコウエイオトメの単複になけなしをつぎ込んだわけですが、内の馬に差されて四着。単複信奉者にとって一番堪える決着でありました。岩田騎手が内を突いてはまった時は太刀打ちできません。いやはや。あっぱれだったのは勝ち馬アドマイヤデウスと同斤量55キロで惜しい二着だった牝馬フーラブライドですな。実にコウエイオトメとは4キロのハンデ差があったのにもかかわらずラスト直線は圧倒的。僅差でも牝馬同士ではレベルが違いました。パドックでコウエイオトメに跨がる時の北村友騎手は色メガネながらすごく気合いを込めているように見えて(えらそうですが)好感が持てましたけどねぇ。
いづれにせよJRAの重賞では大敗続きなので毎度心が折れそうになってますが、競馬をやってると当たるのに重要なのはメンタルだと痛感します。もちろん自分のメンタルです。わけわからん予想ながら泰然としてポンポン当てる人間というのもいるものなんです。真面目に辛気くさくやってると馬鹿を見ますね。さすれど予想はやめられまへんなー。予想をしたなら投資もやめられまへんなー。人間なかなか変わりません。

さて気を取り直して来週の重賞展望なんですが、こりゃどうしようかな。日曜中山GⅡのAJCC。アメリカンジョッキーなんとかこんとかというレース名の略称です。出走馬はGⅡレベルの馬が乱立しておるなかに葦毛の怪物おいらの好きなゴールドシップが出走してきます。のど自慢に天童よしみがゲスト出演するようなもんですわ。いくら厳しい予選を通過してきたとはいえ一般人ではプロのカリスマには敵いまへん。小気味のいい手拍子を叩いてお膳立てするのが関の山です。大相撲初場所でも横綱白鳳関の牙城は崩れる気配ないので、一着ゴールドシップは固いでしょう。万が一今日の取り組みで逸乃城関が横綱相手に大番狂わせ起こしたら一枠が要注意とかゆうサインを今閃きました。
逃げ馬不在でスローペース確実なので先行馬ミトラが一枠ないし内枠に入ったら特注。
予想新聞なんかではエアソミュールが対抗印を集めそうですが、配当妙味が薄れるので消したいですねぇ。ここ二走は武豊騎手の好騎乗による好結果かもしれないですし、乗り替わりで割引とみて。都合のいい考え方ではありますが。ただ毎度いい位置取りしてるのでやっぱり内枠入ったら怖いですね。
最後はやっぱりパーソナルサインヒモ穴探しで。最近友だちが映画批評をしていて、ダンサーインザダークを救いが全くないからだめだ、と批判していたので冬場に強いらしいダンスインザダーク産駒の二頭。ベリー騎手騎乗のダークシャドウと三浦騎手騎乗で前走同距離同コースの1600万条件を勝ち上がったマイネルディーン。マイネルもといラフィァンは同レース三頭出しで怖い。

《結論》単勝は1倍台に至るかも。買えないので馬単一着流しにしたいところですが、折角一着決まってるし資金ないので三連単狙い。枠順でマイナーチェンジありますがゴールドシップから2、3着にミトラ、やっぱり一応エアソミュール、ダークシャドウ、マイネルディーン、そして四位騎手の乗り戻りが気になるディサイファを。計五頭流して20点。少ない元手大きな仕事。金があったらマルチにしたいもんですが。初3連単取れんかのぉ。

それではみなさんよい非競馬ライフを!


2015年はクロフネ再来!?

遅ればせながらあけましておめでとうございます。喫茶つきなみの久野昆布です。
去る2014年午年はご推察のとおり馬に振り回されて終わりました。実はわたし「死なばもろとも」の気持ちで年末有馬記念を中山競馬場まで観に行ったんです。それでなけなしを大好きなゴールドシップという馬の単勝につぎ込んだわけですが、三着に沈みあえなくチリと化しました。しまい良ければ良かったんですが、一年の総決算らしく昨年の悪い癖が存分に発揮された負けでした。その日も前半の平場のレースは着実に当たって、移動費くらいは黒字出てたんですけど、例のごとく頭が熱くなってきて有馬に全部つぎこんじゃいました。毎度馬鹿だなーと思いながら、まぁ今回は最初からそのつもりだったんですけど。勝ったのは引退レースの6歳牝馬ジェンティルドンナ。出来過ぎやろーと思いつつもファン目線でものを見ると感動せざるをえない。女は強い。
11万人の観衆が訪れた2014年12月28日の中山競馬場は、もちろん初めてだったんですけど、異様な空気で。その最たるものは喫煙所でして。ガラス張りのハコがそこかしこにはあるものの行き場を失った喫煙者が常に満杯に押し込まれて、その副流煙たるや。まるでナチスの迫害。まるで公開実験場。喫煙者は被差別民族か、とまぁいいんですけど。その点淀はまだマシですわ。一応野外でタバコ吸えますねん。
その上、ほぼオケラになってから船橋法典という最寄り駅まで行くのにも地下道が大混雑で70分待ちとか。ディズニーランドの人気アトラクションか。もう行かない、と決めました。また行くんでしょうけど。ありのままのありゃま記念。

わたくしごとですが今年は20代最後の年でございます。ぱっとしなかった二十代を華々しく飾りたいもんです。年初めのおみくじレース金杯で当たったら競馬一年辞めよう思ってたんですけど、予算難に苦しみ賭けることなく沈没してしまいました。四日のことです。信じてもらえないでしょうが予想はパーぺきでした。そんなもんです。故に今年もこつこつ競馬します。なんと初当たりは三日の園田競馬。ぎりぎり飛び込んだメインレースでエイシンスパイシーという伏兵が突っ込んで来てよもやの大波乱。こちらも牝馬。クロフネ産駒。ただニッカンスポーツの占いコラムで4月生まれのラッキーナンバーが7だったのでオッズも見ずに買ったというだけの単複馬券でした。連れも同じの買ってて刹那の大ハッピー。その日のうちに散財しましたけど。次の日に残しておけばなー。後の祭りだ。
というわけで今年再注目はクロフネ産駒随一の現役名牝ホエールキャプチャです。実に七歳。未婚キャリアウーマンのおつぼねです。とはいえ今年中に引退するでしょうからチェキですよ。しかも前走前々走大敗してるので、人気落ちるでしょうし次走が府中なら狙い時。GⅠはヴィクトリアマイルしか勝ち目ないでしょう。やる気あるんかないんかよく分からんし、人気ない時によく走るので好きです。もちろん葦毛です。主戦が蛯名騎手というのもポイント。海産コンビ。

では今年も喫茶つきなみをよろしくお願いします。未年の未はいまだならずの未なので発展途上のニュアンスもあるようです。時間でいうと午後二時くらいでしょうか。夏なら暑すぎて何もできない時間帯です。木陰で昼寝をするようにおやつのじかんを待ちながら夕餉を夢見るのもいいかもしれません。
追伸。前回のブログから更新、報告していなかった年末の残りのGⅠレースは全て大敗しました。はよ忘れよう。

今週のGⅡ日経新春杯の予想だけします。
本命は菊花賞で投資し惨敗したハギノハイブリッド。頭から鼻にかけての白い筋がすごく綺麗に野太く入った栗毛の馬ですが、あのレースめちゃくちゃレベル高かったので見直し。距離も多分丁度よし。人気落ちんかなぁ。
大穴は牝馬コウエイオトメ。こちらも人間でいえば四十路(?)の七歳。さっさと重賞買って早くお嫁に行ってほしいと陰ながら思っておる訳ですが本馬はいたってマイペースで凡走続き。ただその凡走がひたすら堅実。京都の外回り中長距離の最後の直線は確実に走っておるので、今回距離適性を含め他馬の上がりが遅かったらなんなくマイペースで差しきっちゃったりするんじゃないか、と。こちらも前走七着エリザベス女王杯はハイレベルだったし。ただ馬の尻を追っかけるのが好きなだけの乙女キャラなだけかもしれないですが。そういう子いますよね。ただ人気薄は確実!単複二通りにワイド一点!

ではみなさん今年もよい非競馬ライフを!


競馬予想ブログこっそり開設!の巻

 みなさんお久しぶり。喫茶つきなみの久野です。夏以来すこぶるひっそりと生活しているので疎遠になった人たちも多いかと自覚しておりますが、それぞれ元気にしておられるでしょうか。前回ブログでエンドレスサマーヴァケイションを宣言したためか、最近久しぶりに会った人には、まだ店やってたの、と驚かれます。ええ、それは、何事もなく、そ知らぬ顔で営業しておりますよ。ネット環境が悪くなって更新や情報投下が億劫になっていたのです。ちなみに今はネットカフェで更新中。ほんで現在の喫茶つきなみ営業時間は午前九時から午後六時くらいになんとなく落ち着いております。かわりの店主たちもイレギュラーで入ったりするので利用してくれる人は多少混乱するかもしれませんが、まぁなにとぞよろしく、覗いてみてください。個人的には日曜日を競馬の日として尊重したいため、いないことが多いと思います。ただ来週十二月七日はやってます。
 さて、一年間僕を極度に興奮させ、狂わせ、大声を出させ、大切なはずの僕の時間や思考をむちゃくちゃにしてくれた競馬。
乗りかかった船だけに、周りから中傷を受けようが、もはやすでにこれだけはやめれない遊び以上のものになってしまっています。その反省をなかったことにしないように、これからはこの喫茶つきなみブログを利用して競馬予想とその反省をして、競馬愛好者はもちろん、競馬にまったく興味のない人々を刺激していきたいと思っているわけです。今日はジャパンカップでこてんぱんにされてしまいました。とにかく、僕の競馬は穴馬がいる限り続くのです。体を張った叙情派競馬ブログの始まり始まり。

《2014年秋のGⅠレースの回顧》
 <>スプリンターズステークス<>
 去年の春の天皇賞が最初の競馬でそれからゆるやかには競馬にのめりこんでいった私。故に昨年はレース名もろくすっぽ分からず、日付や馬の名前の雰囲気で予想していました。故に僕の秋のGⅠは今年から始まったようなものです。その一発目がスプリンターズS。今年はイレギュラーの新潟開催で、穴馬しか基本狙わない僕にうまくはまってしまいました。
 狙いはスノードラゴン単複。アドマイヤコジーン産駒の葦毛馬。ゴールドシップを好きになってから、何かと買いたくなってしまう白い馬体の馬なんですが、荒れめの内をつく先行馬をよそにあっさり大外から差しきってしまいました。パドックに入る前の凛とした印象と、いつもより前めの位置取りで勝ちを半分確信しました。祇園ウインズで観戦していたのですが、なんせ単勝オッズが約50倍だったので、快哉を叫びました。ラッキーでしたわ。初GⅠ制覇の大野騎手(確か同い年くらいだった。)あっぱれ。
 ちなみに狙いの決め手は、当日の新潟芝の外枠有利に思えたこととアナと雪の女王なるディズニー映画が大流行したことです。これを機に応援していきたい一頭ですが、芝ならマイル以上の距離のがいいんじゃないかと思わせるゆったりした走りの馬です。やっぱ距離もたんのかな。

<>秋華賞<>
 京都開催の三歳牝馬戦。これはステップレースのローズステークスで三着に駆け込んできた無名馬タガノエトワールに最終的に賭けたと思うんですが、昼から負けまくって残金わずか。それに案外、タガノさん人気してて、三着に入ったんですが、複勝配当はスズメの涙ほど。四コースを回ったときの感じはもしかしたら勝つかもと思わせるものがありましたが。この日は競馬初心者のカップルと女友達に馬券の買い方を教えながら、ついつい、ええところ見せようとして穴を狙いすぎて沈没。わいわい楽しくやれてビギナーズラックもあったのですが、情けない。彼らのせいではもちろんないのですが、人を連れて行って当てるのは僕には百年早い気がしました。
 勝ったのはディープインパクト産駒のショウナンパンドラ。ここから悪夢のディープインパクトショックが始まるのです。やっぱ強過ぎるよなーディープインパクト産駒。穴馬になりにくいから嫌いでほとんど買いたくならないんですが、この秋はそのくだらない信念のために大損をすることが多かったような気がします。特に京都競馬場では。
  
<>菊花賞<>
 三歳最強が決まる京都での長距離レース。この日は去年結成されためがね率の多いサイコ競馬部の面々と久しぶりに競馬、ということで意気込んでひとり先乗りしてたんですが、新馬戦芝2000メートル戦でよもやの大穴単複がヒットして、その日の黒字は確定的になり一安心。その新馬戦でも買っていたのはそれなんですが、京都芝2000メートルではハーツクライ産駒の人気薄が案外きます。成長力があるから勝ち上がるのは遅めと一般的に言われてますが、最初から中長距離に合うスタミナに恵まれてるような気がします。先日もとある2歳重賞で穴めのやつをいただきました。話ずれて申し訳ない。
 後から来たすこぶる不景気そうなサイコ競馬部員たちにえらそうにビールを奢っていたりしたら肝心の菊花賞では浮つきすぎたのか撃沈してしまいました。これは悔しかった。狙ったのはハギノハイブリット。あんまりぱっとしない馬なんですが、京都新聞杯で、本レースの目玉の一頭であるサウンズオブアースを難なくさし切ったレースを見てあるんちゃうかと思ってしまいました。とんちんかんでしたね。
 勝ったトーホウジャッカルは圧倒的でした。資金はあったのにこの馬を買えなかった自分には、そのときばかりはいたく失望しました。トーホウジャッカルはパドックで痛感しましたが超男前です。三歳馬男前ランキング第2位です。めっちゃ男前。一位はウインフルブルームです。男前三歳馬二頭にはこれからも要注目!

<>天皇賞(秋)<>
 この日もかなり意気込んでおりました。なぜなら秋の天皇賞は去年競馬を始めて初めて当たったレースだからです。去年は7という数字に気をとられて、7番だったジャスタウェイの単勝馬券をなんとなく買ったら当たったんですが、そのときはまだ人気薄でただびっくりしてうれしかっただけだったんですが、今思うと、この馬はほとほとすごい馬だったんです。
 そんなこともありました。一年経って少々ずる賢く欲深くなった私。はてさて今年は理性的な予想でもって新しいジャスタウェイを見定められるか、と思いながら、当日京都は淀競馬場の大モニターから東京競馬場のパドックで錚々たる顔ぶれを検分しておったんですが、一際落ち着いていたヒットザターゲットに単複を託してあえなく五着に撃沈。ほとほと武豊騎手と相性が悪いのは私だけ?
 
 このあと、エリザベス女王杯、マイルチャンピオンシップ、そして今日のジャパンカップと熱を込めて反省文をつらつら書いていたんですけど誤って消してしまいました。もちろんというかなんというか、それらのレースはすべて外しました。テンション落ちましたのでまた次回に期待してくださいな。

 ちなみに来週のダート頂上決戦、中京競馬場に開催地を移してのチャンピオンズカップにはすでにきなくさい馬がいます。火山の頻発する今年の日本にサインを得て、今の時点でなんとなくホッコータルマエに期待したいと思ってます。まぁこれから一週間いろいろ悩むでしょうが、どうもくさい。来そうでならん。最近勝ちあぐねてるからやや人気も落ちそうでならん。三歳馬では統一GⅠで僕が期待しているハッピースプリントを退けたカゼノコに注目しています。
 それではみなさん、よい非競馬ライフを送ってください。そしてたまに喫茶つきなみを覗いてみてくださいな。

夏休みvol.2

 僕の夏休みは終わった。何故なら夏休み用の金をゲットハッピーだとかハッピーロードとかゆう馬に投資して、それが外れたからである。金が無くなったからには店を開けねば飯が食えない。しかし夏は終わらない。エンドレスにビーチボーイズのエンドレスサマーを垂れ流す喫茶別荘の開店である。喫茶別荘は夏休み営業なので、店主は夏休みムードである。頭の中は夏休みなのだ。僕は「今すぐサーフィン行こうぜ」と歌いながら実際のところサーフィンなどしない(できない)ブライアン・ウィルソンなのだ。ブライアンと僕との違いは躁鬱の波のでかさくらいなのである。僕は頭の中でサーフィンなどできないが彼にはできる。それが才能というものだろう。
 というわけで今日は店の看板をCLOSEDにしながらも開店していた。夏休みなので食い物はできない!とか、釣りがない!とか普段なら後ろめたい、飲食店としてあるまじき言動が自分の口ながらつらつらと出てくるのが気持ち良くて、(ただ金が一銭も無かっただけなのだが)案外楽しかった。昨日は何も食べてなかったので、ひもじさをひたすら堪えながらの貧乏臭い営業だったのだが、運良くぽつぽつと人は来てくれて、おかげで近所の焼き肉屋でホルモンのランチを貪ることができた。なんていい日だ。腹一杯でもう営業はしたくない、と思いつつ、昼過ぎにはすでに焼き肉ランチでお金がなくなっていたので、腹を抱えながら営業した。
 そんな昼下がりに、客がいないので、備え付けの古本コーナーを見回していると、あだち充のH2がわりかしよく揃っている。11巻から読み出した。すると舞台はフィクションながら夏の甲子園予選ではないか。あのやるせない高校球児の吹きだまり。H2はマンガなので主人公にも甲子園にも華がある(あたりまえだ)。そして主人公以外に華を全くといってもいいほど持たせないタチの悪いマンガだ。そんなH2がやっぱり大好きなのだ。ヒロはこざっぱりしていて恬淡で少しひねくれていて、エロくて、すっとぼけていて、それでいて熱くて、球が早い。つまり男のマイナス要素をすんなり肯定させたような、ぱっとしない男の理想である。ぱっとしない男は得てしてむちゃくちゃぱっとする才色兼備の女性に憧れる。ヒロインの光はぱっとしない男達の一つの理想である。あぁなんてわかりやすい。弓なんか引いてるし、気強いし、無駄なこと言わない。僕を含め、電車とかで、天井に届きそうなくらいでかい弓を携えた女子高生にぐっと来る男はだいたいぱっとしない男である、という定理が成り立つわけである。そんなぱっとしない男の夢を白昼夢のように叶えてくれるあだち充先生はまるでブライアン・ウィルソンだ。
 今年は賭け甲子園でもやってみようかしら。
 

移転

 タイムズアローという馬になんとなく投資したことがあった。祇園の場外馬券場ウインズで、である。その日は確か去年の秋。ジャパンカップだかなんかを外した後の最終12レースのことだ。競馬を始めて何度か経験したが、昼間からメインレースまで当て損ね、それでもなお小銭が残っていようものなら、交通費だろうがなんだろうが使わずにはいられない。それであてづっぽうに下位人気の馬に賭ける。いわゆる大穴である。やけくその大穴狙い。これはよろしくないが、その時はたまたまタイムズアローだった。名前にキュンと来たのだ。おセンチネームに弱い。感傷的という意味である。単勝に数百円賭けて、外れたのは言うまでもないのだが、三着に入って復勝でもかなりの配当がついていた。その時は復勝なんていう概念を知らなかったわけで。
 祇園だったら、地面に付きそうなくらい肩を落としてもなんとか帰れる。すがりつくアテがなにもない秋の夕暮れの空っ風はひときわ涼しく、いっそのこと河に着水しようか、と幾度となく思ってしまう。紛らわしに口笛など吹きながら帰路を歩いていると視界の先で子供が河の土手で遊んでいたりして、母親にもう帰るよ、と諭されている。置いて行くからね。待って、と追いすがる。あぁ夕日が紅い。
 光陰矢の如しとはよく言ったもんで、時節はもう夏である。夏、夏、私の夏。
はなはだ個人的すぎる持論なのだが、夏子という名前の女性は魅惑的である。ナツコなら字にはよらないかも知れないが、おそらくや、夏のナツコがひと際魅惑的だと思う。春子は開放的で、秋子は控えめで、冬子は独創的である。夏子はそれらをごちゃ混ぜにした感じといったらいいだろうか。本名に夏子を持っている人はこんな意見気にしないでよろしい。春子秋子冬子も同じくである。
 ちなみに今年の春先に上述したようなラストのやけくそ単勝大穴万馬券が当たった。エンジョイタイムという馬だった。淀競馬場の天皇賞開催日だった。デートだったので、それは素敵な思い出である。お金なんていうものはすぐなくなるし、後にも先にもそんなことはそうそう起こらない。神様の粋な計らいだと思う。それ自体ある意味神罰なのかもしれない、とも今となっては思う。エンジョイタイムもタイムズアローである。


 ライト休憩室は移転した。ライト清掃会は半壊状態だ。なにかやどこかを維持するのはとても大変だし、骨が折れる。僕が好きな人たちはだいたいそんなにマメじゃないし、自分勝手だ。自分なんて輪をかけて自分勝手だ。長続きしなくて当たり前といったら当たり前だけど、努力次第でもっと続けれたかもしれない、と思うと、無力感に圧倒される。私は今無力感に圧倒されて無一文で移転先ライト休憩室で息をやたら潜めている。移転先とは数ヶ月放置、家賃滞納していた借り部屋である。先日人の手を借りて壁と床を塗り直してキレイにした。自称リゾート風。
 ここ浄土寺はやたら閑静で、夜にでも窓を開けていても人の気配が殆ど感じられない。道路が近いので車の音はわりかしよく聞こえるのだが、人の気配は感じられない。今も哀切そうな猫の鳴き声だけが、窓から洩れ聞こえている。みんな何をこそこそしているのだろう。息を潜め合っているのだろう。人はそれぞれ、自分なりにか、他力からかするべきことがあると言う。僕はわがままなので、いちいちそれらに腹が立ってしまう。辛気くさい人間かもしれないが、もっと僕と遊んでよ、と思う。腕を引っ張って連れ去るくらいの勢いで。思いながらひたすら無力感に圧倒されている。JRA基金に献金して全くの無一文というのも、その大きな無力感の一因であるのは確かである。いつも素敵な時間をありがとう、JRA。タイムイズマネー。

 
 さて、いつまでも感傷に浸っていてはいけない。いけないという理由も実は今あまりない。夏休みである。これは夏子と同じくらい魅惑的な言葉であり、響きであり、概念である。体も心もそわそわしてしまって一方的に店を夏休みにしてしまった。夏休みと宣言してしまった傍ら、少なくともお盆開けまではいそいそと開店はしたくない。無一文になって尚、無駄な意地だが意地は張りたい。何も食えなくても、誰とも遊べなくても、空が青くてしょうがなくても、夏休みは不経済な勤労などしたくない。預託があっての発想だが、預託をつくろうと思ってアドレナリンドライブをしてしまった。見事に横転、ガケから転がり落ちて大炎上である。その際アドレナリンが出過ぎていて痛みを全く感じなかった。
 昼間ごろごろしながら、水木しげる先生の猫楠という、南方熊楠の伝記マンガを読み返していたら、外来語についてのエピソードがあった。熊楠は若い頃に単身渡米して、見聞を深め、しまいには16カ国語(確かかどうかは定かでない。)を喋れたらしい戦前の人物。極めつけに猫語まで解するという怪人だったというマンガである。果てにゃ、霊とも意思疎通を取れたのではないか、という著者の推測もある。粘菌研究の第一人者で、晩年、研究成果をもって時の天皇に謁見したが、実際はむちゃくちゃな私生活の人間だった。
 彼は民俗学の大家、柳田邦男と同時代を生きていて、交流もあったらしい。熊楠は柳田の論文に対して、ドイツのある文士を引き合いに出して、外来語を文章で多用するのはけしからんと、つっかかった。そのドイツ人の文士は英語で論文を書けるが、自国語も超一流である、と。自国語を尊重しなさい、という熊楠の持論である。柳田も熊楠には一目二目置いていた。有無を言わさぬ説得力があったのだろう。
 別になんということもないのだが、横文字を案外多用してしまう自分に対してのただの反省である。ただ今となっては英語も日本語化しているので無理に難解な日本語を使うよりは伝わりやすいのが事実。熊楠はとうにいないし、彼ほど意気地のある人もいないかもしれない。いるかもしれないけれど、それはわからない。それに僕は国粋主義者ではない。国粋主義者でないばかりか人間であることからも、よく逃避しようとする。人の間にあって人間ならば人間でない一人のマサオ、である。これはPHEWの歌詞である。自分を含めマサオが多すぎるような現代、ニュウエイジから非マサオが緊急増産されるのも無理からぬことであるように思う。ネット右翼とかよく知らないが、蚊帳の外を決め込んでる間にどんどん、国の矜持はズタズタになっていて、反作用でそれに抗おうとゆう意地がまた国をずたずたにするかもしれない。近代化ど真ん中の日本にあって和歌山は田辺という僻地にありながらお上の神仏合祀令に猛然と反抗し、周りの一風変わった人々を取り巻いていった熊楠はカッコいいなー、と思う訳で。ネットでの誹謗中傷じゃない、体当たりな感じが。ちょっと出町柳のナミイタアレイのボスに通ずるところがある、と今思った。

 ただのライト休憩室移転と喫茶つきなみの夏期休業とそれについての反省と無力感についての文章だったのだが、例のごとく大分逸れてしまった。文章に対するリハビリということで。
 リハビリといえば、ここ新ライト休憩室は以前病院だったという噂をごく最近耳にした。どうりで、以前寝起きしていた頃良く眠れたわけだ、と自分の中で納得したのだが、再度、しばらく入院生活に突入した。建物自体昼間は結構活気があるから、まったくの自分勝手な入院なわけだが、心のていたらくをどうにかするべく治療に専念する次第である。花束持って来てください(冗談デス)。

 
 



 
 


 

 

 

 

ワンダフルワールド

【はじめ】
 ここ何日か、空がたいそうくぐもっている。ただの曇り空なのかもしれないが、昨日行った丹波口の床屋(なぜかわざわざ足を伸ばしてしまう生活圏内にはない床屋)の六十前後の夫婦は共々PM2.5だとほとんど断定していた。どうも喉元がつんつんするそう。これについて自分は何とも言えないが、その夫婦はややこしい注文の髪型でも面白がって切ってくれるし、顔剃りもすこぶる丁寧だし、値段も良心的だし、彼らに言われてみるとそんな気もするようなしないような気にもなる。ちなみに今回は好青年風にしてくれ、と頼んだ。髪型だけは好青年風になった。
 丹波口は五条通に面しているJR京都線の駅名でもある。床屋は通りの北側に面していて駅から三、四百メートルくらい東に行った所にあるがあんまり殺風景なのでいつもどこにあったか忘れてしまう。住人にはでかい声で言えないが、親しみを持つ人なんてあろうはずもない乾ききった所だ。五条通は国道九号線でもあり三車線は車でひしめき合っていて、京都とはいいつつほとんどどこにでもある郊外の幹線道路でネタがやたら大きい大阪資本の回転寿司屋や、駐車場が売り場より面積を占めているユニクロや、ドライブスルーのできるスターバックスやらが西は滋賀、東は大阪からの家族連れやらカップルやら貨物ドライバーやらタクシーのおっちゃんやらをまるごとひっさらっていくように出来ている。
 そこからおずおずと自転車を漕いでいく。堀川通に文字通りぶち当たると、何回ぶち当たっても途方に暮れるのだが、車の激流のような交差点の路面に横断歩道が無く、歩道橋を見上げると、疎らな雨の下、暇を持て余した学校帰りの少年がひとりで傘を開いたり閉じたりしている。仕方無く北に迂回して、三十回生まれ変わっても入ることのないであろうカフェバーを左に見やって、ちょっとした信号無視をして、右に体を向け変えるとやっとこさ信号のあるベき大きさのある横断歩道に出くわす。そこからタイミングが悪いのか三分も待って二時間かけて堀川通を渡り東側の歩道に辿り着いたときにはすでに午後五時二十五分だった。ひったくり防止の網を前かごに着けたおばさんのテカテカしたラベンダー色の自転車が申し訳のようにベルを鳴らし、くすんだ青の上着を濡らして一層くすませた僕を追い抜かして行った。



【浜田】
 こちらは四条河原町のちょっとした風情のある小路。とはいってもここ十数年で、風俗店が乱立して、由緒ある(のであろう)料亭や旅館やそば屋、気鋭の小綺麗なダイニングバー等と睨みをきかせ合っている。その丁度真ん中あたり、ご多望に洩れず両隣に同資本のファッションヘルスがまします二階建ての建物は、これまた以前は風俗店。二階の貸しテナントは延べ六部屋各々わずか三畳半。惜しむらく数年前まで昼夜ひっきりなく数限りない情事が営まれていたであろう小部屋。こいつをそのまま貸す経営者もどうかしてるが、借りる方もどうかしている。そのどうかしている一人が自分なわけでして。しかも二部屋。
 どうにかしていながら借りてしまったこのけったいな部屋。果たしてどうにかなりそうな妙案もあるでなく、軽い頭に干し草を寝る間も惜しんで二ヶ月間詰めて詰めて、やっとこさ出てきた排斥物が事務所にするという考えだった。やることもないのに事務所。法外ではないにしても家賃はもちろん発生するわけだが、しかし、それを工面する方策もさっぱりない事務所。事務所、あぁ、なんてドライで洗練された響き。


「それめっちゃおもろいやん。」
 と、浜田は目を輝かせた。小柄小顔の毒気のない風体で惜しげも無く、なんでやねん、を連発する極めてライトな須磨生まれの舞踏家志望の男。現在はクロネコヤマトのバイト配送員。
「おもろいのはもちろんおもろいんやけどな。場所にインパクトがありすぎて、それ以上の面白さが全く想像つかんのですよ。なんか一緒にする?」
 冴えない男二人で、「事務所」近くの名曲喫茶店で無理をしてお茶。コーヒー一杯五百五十円もする。二人掛けの座席の深紅のベルベットのソファクッションは良くも悪くもない座り心地。座席向かいの壁にモナリザのレプリカ。それでもケンタッキーで三年間ぶっつづけでバイトしてフライドチキンを涎を垂らしながら我慢して飲まず食わず貯金してやっとこさ買えるような上等のレプリカ。
「いや、俺な、ほんまダンスだけで食べていきたいねん。バイトとかもうしたくないんやんか。実家にファイヤーキングけっこうあるで。売ろか。」
 実はと勿体ぶっても仕方ないが、彼浜田と私船田は同じライブハウス専門の寸劇バンドの構成員なのである。その名もライト清掃会。冴えないのが持ち味。演者は延べ四人。皆ライト清掃会という会社の派遣スタッフでライブハウス側に雇われているという設定である。本来あるはずの労働報酬はもちろん皆無である。劇中浜田はキャリアの一番浅い新米スタッフで、仕事前の詰所で皆に缶コーヒーを買いに行かされるという重大な役割を担っている。
「ファイヤーキングてあれでしょ。乳白色とかうぐいす色とかのごついカップ。あれなんや古着屋とかでいい値段で売ってるなぁ。」
「せやねん。せやけど、アメリカのリサイクルショップで1ドルせんくらいで買えんねん。結構状態ええのが。一時期集めとったんやんか。」
「以外ね。まぁベタなほうが売れるかな。じゃぁそれを元手に表向き雑貨屋ということにしましょか。まずは資金稼ぎ。」
「なんのやねん。」
「いや、ライト清掃会用のピンマイクをね。買いたいですやん。」
「あぁ。」
「あんま、無理に声を張ると演劇じみてて嫌でしょ。かといって素で喋ってもだれも聞き取れへん。ただでさえ茶番なのに。」
「まぁ、せやな。しかしファイヤーキングがピンマイクか。切ないなぁ。」
「嫌ならええで。」
「いや、俺前々から雑貨屋したかってんか。」
 んなアホな、と思いつつ、まぁなるようになるか、とも思い、生クリームのたんまり沈んだ濃いコーヒーをちびちびすする。会話が止まると浜田はガラス玉のような目になって肩の関節を緩ませるように揺れ動かし両の手を水中のクラゲのようにゆらゆらと動かし出した。舞踏家志望の彼がふいによくやる動作だ。実際のステージではまだ彼の踊りを見たことがない。
 ふ、と僕が溜め息とも安堵の息とも区別のつかない息を吐くと濃い茶色の陶の灰皿の灰が向かい浜田のコーヒーカップの中に舞い降りた。
「ごめん。ハイライトの灰やし許して。」
「どういうことやねん。俺のも混ざっとるわ。ええけど。」




【のど自慢】
「どうしようもなく、やりたいときにどうすんねん。」
「いやぁ、どうにかごまかすしかないですわ。」
「そんなんゆうて、どうせネットでエロ動画見て解消したような気になってんねやろ。ええけどな、手軽やし。お姉ちゃんはいくらでも脱ぎよるし。せやけど不健康や。どーう考えても。」
 バスバスと若輩の痛い所を突いてくるこの男性は河添さんという出町柳にいくつかの不動産を持ちつつ、普段は奥さんの実家が三十年前から観光客相手に卒なく経営している煎餅屋で働いている端から見ると悠々自適な五十代前半のおじさま。鷲のような鼻と鷹のような目を携えた、少なからず威圧感のある元占い師。
「俺は高校の時に先輩に連れられて初めて、当時上七軒にあったストリップ小屋に行ったんや。扉一枚開けたら踊り子が胯パカーンや。胯パカーンやで。もうびっくりしたわ。異世界や。
 で、俺を手招くんや。おいでおいで言うて。ステージ上がれってけしかけてくるわけや。若い時は俺もけっこう男前やったしなぁ。」
「それで?」
「そんなんお前本番やがな。ステージの上でやんねやで。客も、若いの上がれ上がれ言うて。そんなん俺できひんわ。目見開いたおっさん達に見られながら。」
「へええ。なんかそれマンガの世界ですよ、今となっては。おっさんら数人でジャンケンして勝った人が踊り子さんと本番。」
「せや、そんなんや。労働者風のおっさんが寄ってたかってなぁ。せやけど、当時六十くらいのおっさんがやで。よう頑張るねん。何回出せんねんって。すごいで、慣れたおっさんは。俺にはよう真似できひん。」
 ちなみに私船田は一年ほど前から、ここ出町柳で元自動車の整備工場があったというバラック小屋の一角を借りてしがない喫茶店を昼間にやっている。只今午前十時二十分。僕が店主で河添さんが客という寸法。
「いやぁ、しかしいい時代ですね。羨ましいですわ。」
 いやまさに本音である。
「ほんまやで。やけどどうにもなれへんのやろな。そういう店が今はもう殆ど残ってへん。ストリップ小屋かてもうないんちゃう?」
「東寺にまだあるらしいですけどね。物好きな友達に行こう言われましたわ。早よ行かんと無くなっちゃうでしょうね。」
「ほんませやで。行っとき行っとき。さすがに本番できるかわかれへんけどな。
五百円玉姉ちゃんの胯に突っ込むゆうのもあったわ。雑用の兄ちゃんに五百円玉渡したら、消毒した五百円玉と替えてくれんねん。それをな、じぃぃと穴に目近づけて。大真面目やで。」
「へええ。気が向いたら行きたいです。まぁ気が向いてもこの商売二、三千円余裕拵えるのも難儀でしてねぇ。」
「チケット買ったろか?後何枚残ってんねや。」
 うちの店にはコーヒーチケットがあって、十一枚綴り三千円で常連もしくは常連候補のお客に売っている。ある種の先行投資であり、またある種の詐欺である。これを買ってくれた客の中にもとんと来なくなった人が何人かいる。大体女性だ。
「いやぁ、有り難いですけど、今日もう木曜でしょ。どうせ土日アレに突っ込んじゃいますし、無くなってからでいいすよ。」
「そんなん俺には関係あれへん。ほら。せやけどアレはどやねん、最近は。」
 河添さんは札入れから手が切れそうなほどピンピンの千円札を三枚出して僕に手渡した。札はブリキ手動のレジの引き出しに無造作に突っ込まれた。
「ありがとうございます。確かに頂きました。アレの方はちょいと受難の時期に入ってますわ。」
「受難てお前キリストにでもなったつもりか。そんなほいほい当たる訳ないで。相手はお馬さんや。人間の思い通りに走ってくれる訳あれへん。俺みたいにGⅠだけ、のど自慢でやらんと。のど自慢でやり始めてからプラス収支切ったことないからな。」
 と、言い河添さんは本日四本目のタバコに火を付けた。オレンジ色の箱のアメリカンスピリットはカートン買いである。
 河添さんは競馬予想を日曜昼間ののど自慢のスケジュールを確認してやるそうだ。そしてGⅠレースしかやらない。例えば去年のオークス。その日のど自慢にはゲストに橋幸夫が出演していた。直感的に端の馬が来ると読んだ河添さんが出馬表をチェックすると大外に武幸四郎の騎乗するメイショウマンボがいるではないか。幸夫と幸四郎の幸も一致する。ダジャレ的だが世の中の事象は離れていても符号があるらしい。結果その馬は一着に来たが最内一番の武豊が二着に来ることに気付かなかったことを悔やんでいた。

【中川】
「チース。」
 と、花柄のシャツにサングラスに長髪に金のスニーカーの男が入店してきた。彼もライト清掃会の一員であり、風体は仏像愛好サブカルおじさんのみうら某氏に似ているとたまに言われるらしい。僕はどちらかというと、そういうのはどうでもいい。ライト清掃会では派遣バイトのくせにとても偉そうで、毎回派手な服ばかり着てくることを注意されても直さないという役所である。缶コーヒーはボスしか受けつけない。
「おはようございます。会社は?。」
「いやぁ、寝坊しちゃってさぁ。どうせ遅刻だし朝飯食って行くわ。サンドイッチできる?」
「はい。」
「んじゃぁ、それとコーヒー。」
「了解しました。」
 席に付くなり中川はサングラスを外してカウンターの上に置き、スマートフォンをまさぐり出した。わりかし童顔でくりくりした目をしている。よく初対面の人に女性に間違われるみたいだ。
 僕は湯沸かし器から水を出してやかんに入れガスコンロに置きつまみを回した。一回目に付かず、もう一回少し入念につまみを回すと付いた。
「ほな行くわ。」
 と、河添さんはそそくさと出て行った。彼は大体客が誰もいない時を見計らったかのようにやって来て誰か来たら帰る。ここらへんが京都人らしい所なのかどうかは知らないが。
「ありがとうございましたぁ。」
 やかんのお湯はすでに音を立てていた。河添さんを見送るのもほどほどに、僕は慌ただしくコーヒー豆の入った缶の蓋を開けをスチールのれんげで適量取り出し、ミルに放り込んでスイッチを入れた。豆が挽かれている内に冷蔵庫で冷えていたネルを取り出し、給湯器を押し回して、ほどほどの温さのお湯を出し、それを洗った。洗ったら後は悲鳴を上げるまで絞って、三回手の平でしばいた。しばく際パンと高音が鳴ったらネルは息の根を止める。今回うまく鳴ったのは三回中一回なので、今一歩くたばりはしなかったかもしれない。そのくたばりかけのネルをセットして挽き終わったコーヒー豆を入れて、やかんのお湯を先の細いポットに入れ替えて、つつつと注いだ。注いだ先から食パンをコンロで三秒あぶった包丁で二枚に切って、冷蔵庫からラップにくるまれた四分の一のアボカドを取って、縦向きに五ミリ幅に切り、一枚目のパンにサワークリームを塗った。そうこうしてる間に蒸らしていたコーヒー豆は膨らみきって、ぶーたれていた。すいませんでした、と一声かけてまたつつつとお湯を注ぐ。カップにも半分くらいお湯を入れて温める。つつつつつ。
「俺さぁ。なんか社長に社長になれって言われちゃってさぁ。」
 中川は唐突に巻きタバコを巻きながら言った
「灰皿もらっていい?」
「あ、うん。ごめんなさい。」
 僕はコーヒーサーバーをドリッパーから外して、まだコーヒーの抽出液の垂れている所にアルミの受け皿をあてがって、自分の吸い殻が二本入った灰皿の殻を捨てて中川に手渡した。そしてサーバーの液体をカップに移し替えてソーサーに置いて差し出しながら言った。
「それってどういうこと?サンドイッチちょい待ってな。」
「うん。いや、なんか社長分社作ろうと思ってるらしくて。それでおれにやれって。なんか妙に好かれちゃってるみたいなんだよね。で、好きなことやれって。」
「へええ。そんな旨い話がこの世にあるのね。まだ働き出してそんな経ってないでしょ。」
 中川に背を向けてもう一枚のパンにクリームチーズを塗って、小皿に醤油とチューブのわさびを入れてかき混ぜて、アボカドの乗っているパンにかけて、二枚のパンを合わせて、汚いトースターに突っ込んでつまみを回して中川のほうに向き直った。
「半年も経ってないかなぁ。なんかわりかし気が合うんだよね。一応その社長の面識を市井さんに観てもらったんだけど、この人やくざだよ、気ぃ付けたほうがいいって言ってたわ。」
 市井さんというのは中川が四柱推命を習っている占い師で、面識というのはその人の生年月日から四柱推命によって割り出されたパーソナリティみたいなものである。
 ちなみに僕も市井さんの占い教室に何回か出向いたが、月謝が工面できず滞納したまま数ヶ月が過ぎ、氏から顰蹙を買っているらしい。なんとかしたいが今はどうもこうもならない。
「社長は日柱何なの?」
 日柱というのも四柱推命用語。すごく簡単に言えばその人の生まれた日の個性か。
「確か癸、干支は忘れちゃった。」
「お、じゃぁあっしと一緒じゃないすか。」
と言いながら、トースターの中を覗いた。もう少し焼いて良い。
「まぁ癸にも色々あるよ。船田氏干支なんだっけ?」
「卯ですわ。」
「あ、そうか。まぁ社長、卯ではないね。」
「うん。ひとりよがりだからね。卯は。そういえば、この前、誕生日大全みたいな本読んだら、なんかその人の誕生日の性格とか、誕生日別の相性とかなんやかんや載ってんねんけど。恋人●月×日、ソウルメイト▲月□日とか。四月二十四日の人僕のライバルやって。」
「って誰?」
「市井さん。」
 再度トースターを覗くとパンはやや焼け過ぎていた。
「はははは。よく覚えてるね。いや、市井さんと船田氏合わないわけじゃないと思うけど。」
「月謝払ってないし。ところで、ごめん。サンドイッチ焼き過ぎた。」
「あぁいいよいいよ。水ちょうだい。」
「すんませんなぁ。」
 僕はそのやや焼けすぎたサンドイッチを二つに切って、ペラペラのホーローの皿に乗せてカウンターに置いた。そしてタンブラーに水道水を直接入れて差し出した。
「お待たせしました。」
 差し出すや否や中川はパンにがっついた。咀嚼しながら、
「ん、うまい。んー、そういえば市井さん。人に金払わない奴が競馬なんて当てれるわけないじゃん、て言ってたよ。」
 僕はタバコを吸おうとライターを探したが見つからないので中川のジッポを借りて火をつけて、大きく吸って大きく吐いた。
「身につまされます。仰る通りです。ライバルなんて恐れ多い。」
 中川はコーヒーを啜りながら、
「そういえば四条河原町の方どうなの?」
 僕はあわよくば中川の勤めている会社に出資協力してもらえないだろか、など姑息なことを思いついた。ネルのコーヒーかすを捨てて給湯器のお湯で洗う。
入り口の方に目をやると、狭い路地を前と後ろに小さい子供を乗せて走る母親の自転車が通り過ぎた。、前かごの前に風車が付いていて、くるくる回っていた。
「いやぁ、どうもこうもないすよ。借りたのはいいんだけど。ちょっとでかいの当たらんかねぇ、と。」
「まずは月謝払ってからだね。」
 僕はさっきのお母さんは立派だなぁと感心している。
「んー。それ以外にも、部屋の家賃、店の家賃、市民税、年金、保険、数年前の原付の違反金、友達に借りたインドの航空券代。おまけに四条河原町の家賃。」
 誠に感心している。
「そりゃ大変だ。まぁ、月謝からでいんじゃない。少しだったら俺貸すよ。」
「それし出すとまた負のスパイラルに。有り難いがやめとくわ。」
「まぁそうだね。」
 中川は早々サンドイッチを食べ終えて、タバコを巻きながら、
「俺も余裕あったら、あそこ使いたいんだけど、会社のことで一杯一杯なんだよね。占いもあるし。」
 コチラの考えを見透かしたように、言った。
「いやぁ、そちらの会社の四条河原町支部にでもならんかね。」
「そりゃ、ちょっとわかんらんわ。まぁ社長に聞いとくよ。とりあえず何するつもりなの?」
「なんか、浜田くんがファイアーキングけっこう持ってるらしいから、とりあえずそれでも売ろうかと。」
「何それ、雑貨?」
「アメリカのブランドのコーヒーカップ。わりかし人気あるらしいよ。」
「あー。でもそれじゃぁ厳しいね。浜ちゃんも、んー。どうだろうね。」
「ちと頼りないわなぁ。」
「まぁ何とかなんじゃない。手伝えることあったら俺手伝うし。幾ら?」
「五百万円でございます。」
「んー。はい。じゃぁね。」
「ありがとう。まぁまた呑みましょうや。ライト清掃会のこともあるし。」
「そうだね。また連絡ちょうだい。」
と、言い残して中川はサングラスを掛け、颯爽と出て行った。僕はサンドイッチを切ったプラスチックのまな板を水道水で大雑把に流して、パンの固まりの残りをビニール袋に戻して電子レンジの中に突っ込んで、そんなに綺麗じゃないダスターを濡らして絞って、カウンター側に回りテーブルを拭きながら大スポの裏一面を見た。
 《ジェンティルドンナドバイへ万全福永太鼓判》《豊トーセンラー末脚確実》《勢いに乗る海老名ホエールキャプチャ捉えるか》
 いずれも競走馬と騎手の名前である。なんでもかんでも激賞しているので、さすがに何が来るのか見当もつかない。


















【韓】
「あぁそうなんや。せやなぁ。なんか最近忙しいんやんか。めっちゃ客増えてて。やっぱ腕がええねんなぁ。最近体の調子は?」
 と、ぬけぬけと自画自賛する彼は韓という伏見の実家で開業している鍼灸師である。京都老舗のライブハウス拾得の壁に貼っている水墨画みたいな絵に描かれている、もちろん当人がそのライブハウスの名前のモデルだろう、寒山拾得のような風体の男だ。毎週木曜の午後、店をほっぽり出して、京大西部講堂近くの姉の店の二階で彼に針をうってもらっている。かれこれ二ヶ月目くらいだが、なんとなく依存傾向にある。こちらがライト清掃会最後の一人だ。彼のライト清掃会での役回りは、依頼先のフロアに鈴を振って徐霊もとい空気清浄をするというもので、我らがポイントゲッターである。時給制であることは言うまでもないが。
「もうズタボロですわ。」
「競馬やろ。先週来いへんかったしなぁ。はい、じゃあ仰向けなって手合わせて。」
 と、僕を促した。脈を取るのである。
「色々大変やねん。別に忙しくはないはずやねんけど。今日はどうか当たるツボを刺激してください。」
 僕は体を捻りながら言った。
「はは、そりゃ無理やわ。もうちょいしっかり手合わして。うん、そう。息吐いて。んーん。」
 僕は言われた通りに、ひと月先の中山記念の情報を頭から払拭してしまうくらい息を拭いた。寝転んだ僕の右側から正座の韓が覆いかぶさるような形だ。彼は案外かなりでかい。痩せてるのか太ってるのか、とても分かりにくい人間だ。中肉中背とも言いがたい。痩せてるようでもあるし、太ってるようでもある。
「やっぱ脈沈んでんなぁ。どういう生活してんの?」
「酒はほどほど。女性は皆無。至って健康的な生活。」
「あ、そう。なんかぁ、体と、精神ちゅうの?バラッバラやねんなぁ。なんでこんな人間になったんやろうなぁ。お姉ちゃんと正反対やわ。はい手おろして。」
「やっぱし、年寄りの子は走らへんゆうしなぁ。馬の話やで。」
「また馬の話か。せやなぁ。大分離れてるもんなぁ。一周りやっけ?」
 韓は僕の上半身に手を当てながら言った。姉の店の二階の床は板張りで、天井を抜いていて、図太い柱が丸見えになっている。上から下まで濃いオイルステインで古さやボロさやみすぼらしさを塗りつぶしてある。僕が寝ころんでいるのは西側の窓の方で、簡易畳を敷いて、韓の地味な上着を足下から腰くらいのあたりに掛けてもらって、丸めた座布団を枕にしている。窓からの日差しが薄く差していて、その日差しにホコリが気持ち良さそうに乗っかっている。僕はイエスと頷いてホコリが舞う様に見とれている。
「やっぱり、虚やわ。沈んでる。右側の肺のとこやな。よしうつ伏せになって。」
 言われるがままにうつ伏せになる。韓は背中の方から手を聴診器のようにかざしていく。変な意味はまるで無いつもりだが、確かに固くもなく柔らかくもない心地のいい手だ。
「ん、背中の発疹は大分きれいになったな。続けたら治るし、もしお金なかったらいいし、毎週来てや。」
「ん。ありがとね。」
 だんだん返事が面倒になっていく。
「よし。また仰向けになって。」
 韓は上着を僕の腰から上に掛け直し、僕の左膝を折り曲げて、ズボンを膝の上まで捲し上げた。依然僕はなされるがまま、まな板の上の鯛状態。彼はおもむろに針を小さいプラスチックのケースから取り出し、消毒スプレーを掛けた。
消毒液の匂いが少しだけ僕の体を緊張させた。
 何も言わずに韓は僕の折り曲げた膝の内側の太ももとの境目のような所に針を差し込んだ。少しだけ痛みがあったので、つ、と声を出すと、あ、痛かった?いや大丈夫。意識が何にも無い真っ黒い空間の中の膝という概念にだけ集中されて、膝が膝でなくなった。膝でなくなった膝の中を少しずつ針がうろうろしながら進んで行く。間もなく僕は膝になって、韓の存在も、日頃の気苦労も、中山記念の予想も、未来への意気込みも、得体の知れない欲求も、みんな膝になった。みんな膝になってしまえばいいのに、という意識も膝になった。けれど、万物が膝になってしまえ、などとは思わなかった。
「はぁい。じゃぁ三十分くらい寝といて。」
 ファンヒーターがピーと鳴ったので僕はそれを返事代わりにした。

【ハワイ】
 市内は稀に見る大雪でどうなっているかと期待していたが淀競馬場は雪のつぶて一つ落っこちておらず雨もすでに止んでいた。それなりに人でごった返している。《興奮のターフへ、あと二百メートル》というぼんぼりが下がっている直通通路を通って昼前くらいに着いたときにはもちろん特覧席は下から上まで満席の札が下りている。かといって下の特覧席を陣取る経済的余裕もハナからないので迷わず二回のゲートから第四レースのオッズが表示されている電光掲示板に目を向けながら地上のパドックに下りていった。四レースは十一時半発走で、現在は十一時三分である。馬場状態も不良、それによるレースの大荒れを期待していた僕は掲示板の芝:良、ダート:稍重の表示に稍唖然とした。パドックでは用務員が種々の馬馬を引っ張っている。
 功を奏すかどうかはしらないが、今日は馬のような茶色に所々白が混じっている自分的には品のいい、最近リサイクルショップで二千円くらいで買ったラマの毛のジャケットに、どうせいつも巻いているからどうもこうもないにしても、気合いと魔除けの意味合いを込めて、これはまた別のがらくた屋で買った赤いマフラー。地味で汚めでくすんだおじさま達からなるたけ浮かないようにグレーの貰いもののハンチングをかぶって、極めつけにガラス作家の知り合いに頂いたガラス製で先に馬の頭がひょっこり突き出たペンを携えて。脇には開いたり閉じたりでくしゃくしゃになった競馬情報の紙面以外は京阪淀駅のゴミ箱に捨てられた大スポ。

 これは出町柳の店の七十歳前後の大家さんに今年の町内の新年会の時に賜ったアドバイスである。競馬を始めてからレースの開催日やらのど自慢やら馬の誕生日やら名前やら干支やら、とりとめのないカルト的なファンタジー要素を集めて、あーでもないこーでもないと予想していた僕にとっては耳から鱗の実存的なアドバイスだった。

「おまえ競馬はなぁ。勝たなかあかんで。とんとんじゃあかん。ただ適当に思いつきで馬券買ってたんじゃ、金どぶに捨てる様なもんや。」
 はい、と私。少なからず酔っぱらった氏は続ける。
「分かっとるか。俺は結婚してからギャンブルというギャンブルからは手を引いたんや。せやけどなぁ、男ちゅう生き物は先天的に賭け事が好きやねん。もうこれはどーうしようもない。俺も今でもたまーにパチンコはするけどなぁ。まぁこれもたまーにや。遊び程度に嫁の目を盗んでな。お前パチンコはするか?」
「いえ、これっぽちも。」
「ん、あ、そうか。まぁそれは置いといてやなぁ。今では全くやらんけどなぁ。結婚する前はやってたんや、競馬。俺はなぁ。競馬で当てた金で新婚旅行、嫁をハワイに連れてったんや。」
「へぇぇ。そりゃすごい。」
「せやで。ここが違うねん、ここが。」
 と言い、氏は手前の目を指差して、別の手で焼酎の水割りのグラスを口に運んだ。髪は殆ど白髪だが、まだまだ健在らしい眼力。人に依るとは思うが、戦争経験者の御仁の耳はなんだか大きいというか立派だなぁと常々思う。歳の問題なのだろうか。
「当時ハワイいうたら、今のあれちゃうで。円が安い頃やからなぁ。周りなんてだぁれも行ったことあれへん。よう行かれへんかった時や。今は誰でも行けるけどなぁ。そこへあれや。競馬で当てて嫁さん連れて行ったんや。聞いとるか?お前競馬はなぁ、パドックや。これに尽きる。間違っても人気やら倍率やら見たらあかんで。あれらはなぁ。もう全部大嘘や。」

 それから大家さんは、パドックでの走る馬の見分け方。恋愛同用本命は一頭だけにすること。ある程度の金額を本命の単勝につぎ込み、その金額の倍を復勝にかけるという俗にいう復勝倍買いをすること。一回見たレースと本名馬を忘れないこと。ピンと来ないレースの馬券は買わないこと、等、酔っぱらいながらも説得力のある語調で惜しげも無く僕に伝えてくれた。別れ際、
「ほな、がんばりや。パドックやでパドック。さっさと稼いで、きっぱり辞めて、ええ嫁さん見つけてドバイにでも連れてったり。おやすみさん。」


 以下のアドバイスを早々実践したのが、約一ヶ月前。その日は年始開催二週目の京都淀競馬場。これも一つのビギナーズラックというやつなのだろうか、のっけに賭けた第五レースの新馬戦で大家さんに言われた通りパドックで見つけた単勝オッズ二十倍超の人気薄があっさり勝ってしまって、単勝千円復勝二千円の配当は三万五千円を超えた。確かレッドなんとかという名前の馬。川須という顔も分からない騎手が騎乗していた。配当を換金し、懐に入れ、これが真理かと、にやける表情を厳しく自制してパドック横の喫煙スペースに赴くやいなや、なぜか胃にどっと衝撃が降りてきた。無意識に緊張を抑えていたのだろうか。成功したライブの後のような反応だった。自分はもうあくせく毎レースする必要がないから、フードコートで不味い狐そばを食って、胃を安心させておいて、次のレースを無いもののように見送り鷹揚に第七レースのパドックに望み、さっきと同じ要領で本命を決めてターフのゴール板の前で、まるで自分じゃないように背をピンと伸ばして腕を組んで馬を待つと、なんだか知らないがまた当たった。ちなみにまたレッドなんとかという馬だった。騎手はデムーロ。配当はさっきより少ないながらも二レースで五万円ほど儲かってしまったわけである。神様になった気分である。真理が大家のじいさんから降りて来た。

 その日の顛末はというと、調子に乗って八レースからメインレースまで単勝、復勝だけでは我慢できず馬単やらワイドやら三連複やらに、懐に余裕が出来たからと触手を伸ばしてしまい、結果的に軒並み外れて、財布に残ったのは二万円くらいだった。欲が出るといけない。真理はするすると僕の手の平からこぼれて、それをJRAに雇われた黄緑の制服を着た掃除婦のおばさんが気だるそうにほうきで掃いてちりとりに集めてさっさとほかしてしまった。













【チチカカステナンゴ】
 話は本日の淀競馬場に戻る。先月の大当たり大負けでさらに競馬にのめり込んだ僕は毎週末、淀か祇園の場外馬券場まで足を運び、まるで天理教の信者のようにせっせと献金した。真理はとうに冬空の彼方の星になってしまって、できたてのにぎり寿司のような今日の自分がここにいる。
 気合いが入れば当たるわけではまるでないこの世界だが、身から心から滲み出てしまうモチベーションが僕にけったいな格好をさせ、馬鹿みたいなガラス製の馬ペンを持たせ、大スポをくしゃくしゃにさせ、店の客のおじさんに法外なコーヒーチケットを買わせ、友達に針をうたせて僕をここに赴かせている。

 なんだか頭は雑然としていて、高校生時代ソフトボール部の顧問にノック中にやる気がないと責められて、バットで太ももをぶっ叩かれたことなどを思い出していた。パドックを見回してもドレもコレもたいして差がないようにしか、思えない。大家さんに教授された「ピンと来ない時は買わない。」というアドバイスなど忘れて、何となく名前がいいと思ったスカイラインという名前の馬に投資することを決めた。大局的に思い返すと、案外よくあることなのだが、結果的にスカイラインは四着だった。もちろん今回も単勝千円の復勝倍買いで望んだ。馬券買いのコツみたいなものも繰り返せば、まるで飼い犬への餌やりのような心ないものになる。三千円といえばウチの店のコーヒーチケット、コーヒーの杯数にして十一だ。なんだか川添さんに申し訳なくなってきた。お金が知らない間にお金じゃなくなってゆく。
 とかなんとか自己批判に陥っていながらも、したたかに次の単勝は十一を買おうなどと思っているあたり、自分は徹底的にクソたわけで素晴らしいと思っていた。
 馬券売り場に引き返した。アウトドア用の折りたたみ椅子で陣取った競馬新聞から目を離さないおばさんや、床に肘をつきサークルになって予想する若い男性グループのかたわらを小さい子供の兄弟が嬌声を上げながら追いかけっこしている風景はまるでスラムである。疫病の種類が違うだけだ。室内はしっかり暖房が効いていてラマの上着では暑すぎるくらい。

 ラマ。ラマ。君はこんなとこに来るために生まれてきたわけじゃないのに。どんなに臭い息を吐いても広大な草原が優しく、こんなのたいした匂いじゃないよと包み込んでくれる。空気は薄いが、僕らは何千年もここにいるから数百年前くらいから慣れっこだよ。喫煙室に入る。若いファーの付いた黒い上着を着ているチャラチャラした細い兄ちゃんがニッカンスポーツを片手に、もう一つの手には携帯電話を携えて、そのディスプレイを覗き込んでいる。ネットのレース有力情報でも探っているのだろうか。元競馬ジョッキーの的確指南、知りたければ今すぐクリック。口に加えたタバコの灰が落ちる。草原だったらたちまち火が寄せて草から僕らから●焦げになるかもしれないよ。いや、さすがに灰では燃えないよ。それでも携帯電話に集中しすぎて左手に持ったスポーツ新聞に口に加えたタバコの火が燃え移るかもしれない。あ、でもそうか。数百年前のチチカカステナンゴにスポーツ新聞も携帯電話もあるわけないか。
 ラマ。ラマ。僕は君を愛していた。でもそれは京都淀競馬場の二階二十六番馬券売り場の喫煙所でチャラチャラ予想をしている実年齢二十四歳の居酒屋店員の男だ。そして喫煙所と馬券売り場スペースのガラス張りの敷居の内側に座り込んでうなだれている推定年齢五十八歳のロイヤルガーデンと背中に英語表記された緑のナイロン製のパーカーを着たオヤジだ。髪は三日間洗っていない。なんで喫煙所というのはこんなに臭いんだ。ラマの息どころの騒ぎじゃない。なんたってラマが生息するのはアメリカ大陸の南のなんとかっていう大陸の高山地帯の草原で、あんまり広くてラマの息の一つや二つや三つや四つはカラカラに乾いたカラハリ砂漠の衛星写真から覗いたオアシスみたいなもんだ。僕はいつもオアシスに焦がれている。それはまさしく淀競馬場内の馬券売り場の片隅にちょこなんと鎮座しているセルフの給水場。暖かいお茶のボタンを押したが、茶葉が切れているのか押しても押しても暖かいお茶は出てこない。仕方がないからパンを拵えてもの言わぬ夜に差し出す。パンを拵えるにもこんなカラハリ砂漠の真ん中で小麦の子一つ落ちてやしない。まるで雪のつぶて一つ落ちていない淀競馬場のようだ。仕方がないから、なんたってここはカラハリ砂漠の真ん中のオアシスなんだから、セルフの給水場で冷たい水のボタンをぽちっと押せば、押せば押すだけ水が出る。あんまり押しすぎて紙コップから冷たい水は溢れてしまった。振り返ると僕の背後にはいつの間にやら乾ききって水を求めた老若男女が列をなし、僕を憐れましい目で睨んでいる。僕はぎゃぁと叫んで、そそくさと彼らを目を合わせないようにやり過ごし、紙コップ一杯になった水を飲み干した。

 気を取り直して券売所の上のモニターの一つを覗くと、小倉第六レースの出走馬十六頭の枠番と名前と単勝復勝オッズが掲示されていた。ダート千四百メートル。馬場不良。上からさらりと見下ろしていくと、なにがなんだか、六枠十一番の馬の名前がワンダフルワールド。その足で人のごった返しを乗り越えてマークシート置き場に行き一番オーソドックスなマークシートを引き抜いた。
ズボンのポケットからガラス製の馬ペンを取り出して、上段左からマークシートに印をしていく。表面:小倉、第七レース、単勝、十一番、千円。裏面:復勝二千円。冷静に。冷静に。イッツアワンダフルワールド。第六レース発走は四分後。間もなく小倉第六レースの馬券販売を閉め切ります、とのアナウンスは一分前。まだ。まだ猶予はじゅうぶんある。自動券売機には締め切り間際ならではの行列。自分が並んでいる列には僕を含め四人。内一組はカップルが連なっている。今まさに馬券を買わんとしている六十代らしいまさに競馬場らしいおっさんは、すでにしこたま呑んでいるらしく、チェックシートにミスマークが多い。後ろ姿、千鳥格子柄の鳥打ち帽からちりちりになった毛髪と赤白くなった皮膚が見える。券売機横からJRAのスタッフが顔を出し、逐一様子を伺っている。
「レース番号未記入ですよ。何レースかわかりますか?」
「えぇ、なんや。小倉の一番近いレースや。え?何レースやったかな?」
「それでは第六レースでよろしいですか?」
「あぁ、もう何でもええわ。あぁ、それでええゆうことや。」
「畏まりました。あと、三連単の二着目の馬が未記入なんですが、何番ですか?」
「あぁ、なんやったかな。一から言うてくれへんか?」
 締め切りまであと三分になった。冷静に。冷静に。おっさんの後ろに位置づけている二十代後半であろうスーツを着込んだがたいの立派な短髪の青年は西暦二千十六年の富士山さながらである。
「そんなん言うても買わな当たれへんやんか。なんやお前俺が買おう思ってた馬券が買われへんかったとするわ。それが蓋開けてみ。もし当たってたら、お前責任取ってくれるんけ?」
 冷静さをぎりぎりで保ちつつも、さすがに我慢を切らした僕はごくスムーズに列が短くなっていく右の券売機にシフトチェンジした。こちらは前に二人並んでいて、手前は四十代の小太りのおばさんである。さっきまでスムーズに列が減っている風に見ていたのだが、そのおばさんは旦那に使い走らされているのだろうか、マークシートを二十枚くらいを一枚づつ券売機に投入していた。

 小倉第六レース四歳上五百万下条件十六頭立てダート千四百メートルは一着に六枠十一番十番人気のワンダフルワールドが入った。単勝オッズ三十五・八倍。復勝オッズ十二・四倍。単勝千円復勝倍買いしていた僕の懐には、時給にしたらネオヒルズ族を超えるのではないか、六万六百円が入った。はずだった。
「なんやねん、この馬。十一番?無印やんけ。ちゃんちゃらおかしい話や。」
 件のおっさんは券売機の上のモニターに向かって悪態をついていた。
























【ファイア】
 「いや、最高のレースだったよ。だってどこの馬の骨かもわからん、ただ名前がワンダフルワールドていうだけの馬があっさり勝ってしまうんやで。」
 僕は言った。四条河原町《事務所》予定地にいる。もともとファッションヘルスのちょんの間だった三・五畳の部屋を二部屋分、壁を壊して、洗面台をぶち抜いて、一続きの部屋という体裁だけを整えた空間だ。廃墟に等しい。
 今日は多少盛大にこの事務所のこけら落としをしようと画策していたのだが、昼間でかい馬を取り逃がしてしまったので、割り勘で買う発泡酒と柿ピー止まりである。淀から鈍行に乗り、京阪出町柳行きの急行に中書島で乗り換えた僕は軽犯罪でも犯してしまうんじゃないか、というくらい不穏な興奮に股間あたりが熱くなっていた。とりあえず構成員を呼び集めて、正気を取り戻そうとした。
「ワンダフルワールドっていいね。逆にセンチメンタルだね。でも名前って重要だと思うよ。船田くんはさぁ、今日どうせダメだったんだよ。当たんないときはどうやっても当たんないんだって。それに止めようと思っても止めれないし。柿ピーおいしいね。」
 丸メガネで背筋をぴしりと伸ばした長身の男は笑いながら言った。彼は森という絵描きだ。ライト清掃会にも勧誘したが、そういうのはいい、らしい。たまに呑みに誘ったら、さほど酒に強いわけではないみたいだが高確立で来てくれる。紺色の服しか着ないらしい。今日はスタンドカラーの柔らかそうな紺の上着を着ている。韓とは付き合いが長い。
「まぁなるようにしかならないよ。」
「森ちゃんも、あれやんな、高校の時パチンコに溺れてたって言うてたもんな。」
 はっは、とにやけながら韓は言った。韓は淡い水色の安っぽいダウンジャケットの上に茶色のフードコートを羽織っている。肩掛けカバンのベルト部分の糸がだらしなくほつれて、そこだけ落ち武者のようになっていた。
「うん、そう。母親の財布から勝手にお金抜き取ってやったりしてたもんね。あの時はひどいよ。で、そんなことしても当たんないんだよ。不思議だよね、あの感覚。当たるときって、なんか、当たること忘れてるんだよね。」
 中川が相槌する。今日はサングラスはしていない。長い髪を後ろで結んでいる。体にぴったりの黒いジャケットを着て首には窒息しそうなくらいモヘアのマフラーをぐるぐる巻きにしている。
「なんか分かる。俺ギャンブルやらないけど。でも俺だったらワンダフルワールドていう名前の馬、買わないわ。」
「あれ、中川くんてさ、どこ出身だっけ。いやほんと柿ピーうまいね。」
「北海道。森くんは?」
「俺、熊本。船田くんも北海道だよね。浜田くんは?」
 浜田は例のごとく主張のないコンテンポラリーな動きを丸椅子に座りながらしていた。黄色のアルファベットのアップリケが背中に付いた緑のスタジアムジャンバーを着ている。
「俺っすか?俺は須磨です。兵庫の。あの、森さんてどんな絵描くんすか?」
「えっとねぇ。まぁたいしたことないよ。また見せるわ。あ、でも今日モビール持って来たよ。」
 森はおもむろに肩掛けしたカバンから黒い紙で出来た物体を取り出した。事務所の濃紺に塗りつぶされた天井を見回しながら、
「さて、どこにつけようかな。」
「いやぁ、ほんまありがとう。」
 と、僕は本音の本音を言った。
「それってなに?フクロウ?猫?馬?」
「馬のは作ってないよ。もう新しいの作る気ないし。猫だよ。」
 森は猫三匹に絡まったテグス糸を、やや長過ぎる指で器用にほどきながら、
「この五人の中には猫科の人間いないね。」
「どゆこと?」
 浜田は突っ込んだ。すかさず中川が、
「俺、そういえば前に師匠に落ち武者が憑いてるって言われたし。まぁ自分でも何となくそう思うんだよね。だから猫じゃないわ。浜ちゃんはさぁ、なんか生き物じゃ無い感じだね。」
「なんでやねん。生きてるわ。」
「いや、いい意味で。とにかく猫ではないね。」
 韓が間に入る。
「ほんじゃぁ、僕は?」
「韓くんが猫だったら俺嫌だよ。飼いたくない。ねぇ船田くん、コレどこに掛けようか?真ん中でいいかな。」
 と、森が言い、丁度二部屋の間の壁をぶち抜いて屋根裏が見えているラインの真ん中を指さした。
「うん、もう任せるわ。ぜんぜんいいと思う。僕虎年やから猫科やで。」
 と、言った。森は、
「猫競馬やんないでしょ。椅子借りるね。画鋲ある?」
 僕は小さい丸椅子に上がった森に錆びた画鋲を手渡した。すかさず浜田が森の上がった椅子をしゃがんで両手で抑えた。韓は柿ピーを食べながらその様子を笑いながら見ている。中川は姿勢は森の方を向いているが視線は彼の組んだ脚の上のスマートフォンの方にある。金のスニーカーはいつも気になる。僕はタバコに火を付けた。
 よし、と呟き、森は丸椅子から降りて、モビールを床に立って確認した。三匹のコミカルな黒い猫が四本の脚と尻尾を広げて中空に浮かびながらゆっくりと遊泳している。
「めっちゃええやん。これ森さんが作ったん?」
 と浜田が言った。森はにやけながら、
「紙の加工は工場だけどね。ネットで見つけた埼玉の小ちゃい工場なんだけど、なんかすごい安いんだよ。でもなんかやっぱり馬鹿っぽいね。猫だけど。」
「うん。色々馬鹿馬鹿しくなって救われます。」
 と僕は灰皿に灰を落としながら言った。中川はスマートフォンで回る猫の様を写真に収めようとピントを合わせている。僕は言った。
「韓くんここで鍼灸せえへん?」
 韓はビールを一口呑んで、ややひしゃげたハイライトメンソールに火を付けた。
「せやなぁ。なんかここ元々風俗店やんか。ちょっと気が悪いよなぁ。床も少し斜めのような気するし。」
 僕はやや苦めの表情で韓を見た。韓のメガネの奥の細い目がもう少し細くなった。
「まぁいいじゃん。とりあえず乾杯しようよ。みんなビールまだある?」
 森が言った。各々五人自分が座っているバラバラの椅子を少しだけ中心に引き寄せた。
「それじゃぁ、何にしようか。えぇ、ライト清掃会事務所の開店。開店でいいんだっけ。まぁいいか。船田くんの負けと今に乾杯。」
 森が音頭を取ると、回る猫の下で大の大人五人が金麦の缶を合わせた。グラスじゃないので軽薄な音しか鳴らなかった。
「いやぁ、いい日だね。てゆうかそれに入れて呑んだらいいじゃん。」
 森は床に散乱しているトゲトゲのや、鳥の絵がプリントされているのや、ただの白いのや、色とりどりのファイヤーキングのカップを指差して言った。
「それ売り物やろ?」
 韓が言った。中川は、
「いいじゃん。折角だし。浜ちゃん、いいでしょ?」
「あぁ、ええで。」
「これら、ナンボで売れるやろか。」
 僕は言った。森は柿ピーの空いた袋を持ちながら、
「コレだったらまぁまぁ高く売れるんじゃないの。ここウインズ近いから浜田くん船田くんをよく見張ってた方がいいね。船田くん負けたんだから洗って来てよ。俺柿ピー買って来るから。」

 ここにはほんとに何もない。馬鹿みたいに回っている猫が浮かんでいるだけ。

「いやぁ、今日は一発当てて皆を隣の店に連れて行こうと思ってたんだけど、こういう結果になりました。ほんと、申し訳ない。」














 【グラスワンダー】
 夢を見た。浜田の夢。
 僕は音信不通になってしまった浜田をどうしたものかと心配していた。雑貨屋を開店させるにも、資金がない。たいしたアイデアもない。暇そうな友達もなかなか思いつかない。浜田は派遣バイトで金は持っていないが融通は利いて、しかもクロネコヤマトの以前にも運送屋で働いていた経験があるらしく、車の運転がたいそう上手だった。よほどでなければ運転はしたくない、とは言っていた。事故のリスクが頭から離れることがないかららしい。ともあれ僕は彼にかなり頼っていた。
 彼は一週間ぶりくらいに事務所に顔を出した。そのとき事務所には僕一人しかおらず、とあるエッセイストの女性の子供時代の写真集を見て、かわいいな、と嘆息していた。いつも以上に暗く感じられる空間だった。夢だったからかもしれない。

「おっす。」
 と、浜田はいつもと変わりない声色でやってきた。
「顔出さんですまん。いっぱいいっぱいやって。」
 僕は写真集を閉じて振り返った。背筋がぞっとした。浜田の両の耳が切り取られていて、本来耳がついているところに隙間が出来ていた。それでもって耳は耳たぶの方が上になるように固定されていた。道理でやけに耳たぶがでかくなったように見える。顔相学的にどうなのかはもちろんわからないけども、禁忌であるようにしか見えなかった。顔と耳の隙間からは廊下の向こうの壁が薄暗く覗いていた。
「浜ちゃん、それ聴こえんの?」
 僕はどう声をかけていいのかてんでわからずも、そう聞いた。
「あぁ。全然聴こえるで。そんでな、こんなんゆうてもアレなんやけど、俺性転換してん。」
 僕はいよいよぞっとした。彼は確かに中性的でなくもなかったが、そこまでするとは考えも及ばなかった。性器の方はどうしても確かめようと思えなかったが、確かに今の彼はガラスで出来たように不自然で、それでいて美しかった。普段と同じスタジアムジャンバーを着ているが、全く別の遠い存在になってしまったようだった。
「俺いろいろ考えたんやけど、人間らしく生きることようできへんし、わからへんわ。だからゆうてな、きれいさっぱり無くなろうかゆうてもそんな度胸ないし。」
 何を言うている。自殺するよりよっぽど度胸あるじゃないか、と僕は思っていた。自分なら同じように耳を切ってひっくり返して付け直してマラをちょん切るなどようできない。複雑な感動を覚えながら、彼を抱きしめたいと思いつつそれができない自分がもどかしかった。自分とゆう存在がどれだけ他人を否定しているかがよくわかった。浜田を通して人を愛するということと、それに伴うただ抱きしめるという行為さえできない自分が露になる。再確認する。それどころか、ろくすっぽ目を合わせることもできない。目があんまり透明過ぎた。
「綺麗事やと思うんやけどな。ただ在りたいだけやねん。ただ在るっていうのに男である必要は無いやろ。別に肯定してもらわんでええけど。」
 浜田はそう言った。

 実際、浜田と連絡がつかなくなっていた。一ヶ月程前から携帯電話はつながらなくなっていたのだが、フェイスブックのダイレクトメッセージで度々呼び出しては、事務所で落ち合って不毛なコミュニケーションを取っていた。飯を食べに行っても特に会話が弾むこともなく、話が止まるといつものように彼は手をゆらゆらと宙に浮かべて、空気になった気分でいる。僕はそれに対し少し苛立っていた。
 とはいえ、彼と連絡が付かなくなるとこっちも気が気ではなかった。もともとは彼が乗ってきた事務所雑貨屋化計画だし、ファイヤーキングをこれでもかと持ち寄ってくれたし、バイト生活を辞めたがっていた。舞踏ができたらそれでいい、と言っていた。実際浜田みたいな人間じゃなくてもクロネコヤマトの配送はできるし、かれよりよっぽど適している人材なんてごまんといるだろう。だが僕が代わりにできるか、と言われればできない。そんなことばっかりなのである。
 夢で見たようなことになっているとはさすがに思わないが、彼が深い所に落ちていることは容易に想像できた。自分もそういうタイプの人間だからだ。こういう時は大体良く寝る。都合のいい人からの連絡にしか応答しないし、どこに行っても落ち着かない。誰か知っている人間に会わないように息を潜めるようにしてコンビニに行く。公園という公園でやたらぼーっとする。遊んでいる子供を見て感心する。タバコを吸う。不味い。仕方がないから家に帰る。ダウナーでドリーミーな音楽を聴く。何度も何度も何度も聴く。そのとき、それが無上の安らぎになる。そこからどう這い上がれようかなど、そんなこと全く想像つかない。暗い暗い孤独。得てして幸福な孤独。けれど孤独はどこまでいっても孤独。
 僕はどうにもできなかった。もしかしたら僕の不安定さが彼の不安定さを助長したのかもしれないとも思った。ただ彼がひょっこり現れることをことあるごとに期待していた。こういう期待があまり功を奏さないこともなんとなく知っていたが、それを止めることはできなかった。気持ちはどうあれ、こういう場合に人に追いすがるのは苦手である。とにかく彼が僕に求めていることは、僕が想像する限り何もないような気がした。
 




















 ここから先の話はほとんど浜田を中心に展開していくことになってしまうようだ。けれど、その中心であるはずの浜田が実際に身を乗り出すことはもうないだろう。もしかしたら彼は、それがなんであれ、話の主役を張るような類の人間ではなかったかもしれない。殊に彼自身、舞踏家というものを志してはいたが、舞台でスポットライトを浴びることを目標に踊っていたわけじゃないと思う。ライト清掃会での彼を含めたステージは延べ三回しかなかった。そこで彼にはぺーぺーのバイトスタッフで、何となく他の清掃員に邪険に缶コーヒーを買いに行かされ、過去の恋愛話を無理矢理話させられ、ひやかしを受けて、現場に入ってもやるべきことがわからなくなって、出し抜けにフロアで逆立ちをして、同僚に非難されるというどちらかといえば三枚目の役回りをしてもらっていた。役回りの設定は現実とはもちろん関係はないのだが、ごく自然にそういう役回りに落ち着いてしまったのだ。演技の設定が現実と関係ないとは言ったが実は密接に現実と繋がっている。自然であればあるほど、遊び心でしたつもりのおふざけが彼の個性をあぶり出していく。僕が唯一できる言い訳があるとしたら、彼の演技が必要だったということ。ピエロとしての浜田を勝手に想像して彼をピエロに仕立て上げようとしてしまった。そこでは僕もピエロになろうとして彼をそそのかした。はからずもたちの悪い呪いを彼にかけてしまったのだ。動機など何もない。ただ彼と遊びたかっただけなのだ。浜田にしてみればそれは余計なお世話で、彼はただ何者でもない存在になりたかっただけなのかもしれない。
 
 僕はよもや何も手つかずの状態になっていた。店を開ける気にもならないし、誰に連絡をする気にもならないし、行きつけの喫茶店に行く気にもならないし、市役所からの電話を取る気にもならなかった。言うなれば、浜田の状態を勝手に想像して、全くその想像と同じような心持ちに乗っ取られてしまった。もちろんこれは僕が勝手にやっていることなので、浜田が悪いわけじゃない。僕が悪いといえば悪いが、何もしたくないので仕方ない。仕方ないで済まされるかと言われれば済まされないかもしれない。けれどどうしようもない。
 世間での美徳といえば、これまさに継続という行為で、どんなくだらないと思えることでもコツコツ毎日毎日続けることなのである。店を始めてから気分で休んだり、ほっぽり出したりというのを時折やってきたけれど、何かにつけ客に非難される。もちろん寛容な人もいるにはいるが、休むにしても客が納得できる理由が要るらしいのだ。非難する人に限ってたまの休みばかりに顔を出して機嫌を悪くして別の店でまた別の客に吹聴する。悪い噂が広がる。けれど僕には旅行に行くからだとか、生理中だとかそんな休業するのに適切な理由など全くないのだ。アッラーみたいな絶対服従神がいたなら、アッラーに今日は店をするなと夢枕で言われたから休みます、とでも胸を張って言えるかもしれないが、もちろんそんな存在もないので言えない。コーヒーチケットもまだまだ店の壁に引っ掛かっている。多少後ろめたさを持ちながら、仕方なくほっぽり出すのが関の山なのである。早く気付いたら良かったが、決定的に飲食店従事者向きでなかったのだ。いやはや自分に甘い。まぁとにかく僕は店をほっぽり出した。もちろん無収入になる。困ったものだ。仕方がないから市バス204号  系統に百万遍から乗って四条河原町の事務所へ赴いた。
 
 事務所にはもちろん誰もいなかった。壁のスライド式のスイッチを上げると天井に埋め込んでいるライトが四つ明かりを灯した。それと同時に何も悩みの無さそうな猫が三匹空中を泳ぎだした。僕はその猫らをタバコ一本吸い終わるまでの間ぼーっと眺めてから韓に電話をかけた。コールが六回鳴って韓は電話を受け付けた。
「はぁーい。どうしたの?」
 予想通りあまり悩みのなさそうな声だったので僕は少し安心した。
「どうも。船田です。」
「わかってんで。店やってるん?」
「いや。やってへんねん。どうも気が乗らなくてですね。事務所にいます。」
「あぁ、そう。大丈夫?事務所で何してんの?」
「鍼灸師を待っています。」
「はは、僕に来てほしいん?今日は往診ないから行こう思うたら行けるんやけどな。いまいち気分乗らへんなぁ。明日大阪で勉強会あんねんな。」
 僕は気持ち一拍分間を置いた。二本目のタバコに火を付けた。
「ゆうても、今まだ三時やで。どうせユーチューブ見てるだけでしょ。」
「んー。まぁせやねんけどな。はじめ、甲殻機動隊見たことある?」
「知り合いに勧められて一話だけツタヤで借りて見てみたことあるけど、よう入り込めへんかったわ。なんか話えげつないやん。」
「あぁそうなんや。めっちゃおもろいけどなぁ。」
「そんなことよりさぁ。ここしばらく浜ちゃんと連絡取れへんねん。で、結構困ってるんですわ。」
「あ、そう。どうしたんやろなぁ。はじめ、なんか無茶振りしすぎたんちゃう?浜ちゃんもさぁ、なんかけしかけられてやるタイプちゃうやん。僕もそうやけど。」
「やっぱそう思う?」
「いや、そうやと思うで。そんな付き合い長いわけちゃうから確かなことは言えへんけど。」
「プロ鍼灸師の直感ですか。」
「うん、まぁそんなんかな。だってダンサーやろ。やっぱ性格自由でしょ。」
「そんなもんかね。雑貨屋したいって言うてたんやけどなぁ。まぁとにかく呑もうや。森くん呼ぼうか。」
「あ、せやな。僕から連絡しよか?」
「うん。頼むわ。」
「でも森くんも昼間仕事やろし、六時か七時くらいにはなると思うで。」
「うん。四条河原町でいい?」
「大丈夫やで。じゃぁ着いたら連絡するわ。それか事務所行こか?」
「まぁどっちでもいいよ。待ってます。よろしく。」
 

大文字のヨハン

文章を書くというのは不思議なことだ
時間もかかるし、そもそも書かんくったって立派に生きて行けるはず
立派に生きていくというのはどういうことか
そんなの全くわからんけども何となく目をキラキラさせて生きている人は立派なような気がする
目をキラキラさせているならどんな暴挙を働いていようが何となく許されるはずだ
強姦だって万引きだってピンポンダッシュだって殺人だって食い逃げだってオヤジ狩りだってイノシシ狩りだってイカサマだってイカ釣りだってタコ踊りだって
だってそれは多分それが心からしたい、やらなければやらないことだから
そんなごく普通であろうことを見失ってしまいがちな今日この頃
あたりまえの自分を取り戻すためにこんがらがった頭の中
あれやこれやとガラクタの山をひっくり返しては大切なおもちゃを探す
そんな作業だろうか
人が増えて来ると大変だ
定食屋も床屋もアクセサリー売りも大道芸人もあんまり多すぎて暴挙が働けない
定食屋Aに暴挙を働いたら定食屋連合に毒を盛られる
床屋Bに暴挙を働いたら床屋組合に切り刻まれる
アクセサリー屋Cに暴挙を働いたらオシャレ業界から非オシャレ判定を下される
大道芸人Dに暴挙を働いたら大大道芸人Xに家に火をつけられる
もうもう恐ろしいことばっかり目に見えすぎている
こんなことだからアノンは無口になって星ばっかり見るようになって
昼間は星が見えなくなるから夜に集めた星をいそいそと文字にするようになった
アノンが昼間文字にした星はやたら白の多い黒ながら線と線がにょろにょろと目を通り鼻を通り段々畑を越えて麦わら帽子のブラジル女を追いやり、木陰で寝ぼけている羊飼いを冷やかし、小高い丘でマイムマイムを踊って、ちょっと疲れて、海岸へひた走る 防波堤をよじ上り、テトラポットでタコ踊りをしながら着水する なんて暗い蒼だろう 思ってたより水はしょっぱいし汚い それでもヒンヤリしていて気持ちいいもんだから奥へ奥へ 底へ底へ サンマの群れがでっかいサンマみたいになって通り過ぎる 風が起こりそうなスピードだ 波紋は遠く遠く 鴨川あたりを散歩していた昆布くんにひゅーと吹き付け、なんとなく心地良くなる 見上げた夜空にやっとのことで僕がもし全開の視力であれば星が瞬いているという寸法である
いやはやまわりくどい
それもそうそもそも文字というやつはまわりくどいやつなんだ
おそらくや男の子だ そうだ、たしか放蕩紳士だ ビオラを弾き空を飛ぶんだ エミーダンスとやらを踊るらしい カラハリ砂漠で恋をするし
あんまり楽しそうなので追いかけていたらいつの間にかどっかへ消えていた 竜巻に飲まれたのかもしれないし、
追いはぎに遭って一文無しになった末山賊にコキ使われてるのかもしれない 錬金術を30年かけて習得して、ぶりぶりに太っているかもしれない 
ヨハンはよもや浮浪者である どこへ行ってもからっ風が吹いている というよりからっ風が吹いている場所を好んでうろつく 人のごちゃごちゃしてる商店街だとか縁日だとか祭りだとか橋の上だとかアルタ前だとかそういう場所をより好む スリを働く勇気はなく 人に声をかけるには臆病で 発砲するべき銃も訴えるべきイニシアチブもない 魚釣りをするのも億劫である
そんな彼に目を留める中国人などおるわけもなく かれは細々と 人の合間を縫うようにしてそぼそぼと今日も歩いている そんな彼の胸を踊らせるのはせいぜい暴力団員の喧嘩と期せずして飛び交っているシャボン玉と中華鍋でホイコーローを炒めている音くらいだ
そしてそのようなシーンによくかち合えるのがからっ風の吹く雑踏なわけであります
ヨハンは介入しない
ただ眺めては目をキラキラさせて目が合った日には手前のでっかい砂漠色のボストンバックに隠れてしまう ダイヤル式の鍵は4桁で4704に設定してある 世直しである 露呈はしていないが正義感はもっていない事もないらしい
人々は彼をくびれのない瓢箪だとか、ダシの出ない昆布だとか、いろはすのペットボトルだとか言って罵る
彼にはそんな悪態も悪態に聞こえないから、ある意味災難なのである
ただあんまり正確な時計を見つけると針を無茶苦茶にひん曲げてしまう悪い癖がある
そのせいでとある町では工場という工場が混乱して閉鎖に追いやられた
そんなヨハンが僕は大好きなのです

ヨハンは今日も揚子江あたりをうろついて、たまに雲から垂れた、文字が綻んだ釣り糸にうっかり食いついては、星の見えない夜に住んでいる人たちの眼前を大文字になって飛んで行くのです


 | ホーム | 

FC2Ad

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。